なんと省庁を半減し、公務員をリストラ
では、ミレイはどんな緊縮、改革を行なったのだろうか?「Wikipedia」に箇条書きでまとめられているので、それを以下、転記する。
就任してすぐ、ミレイは自身初の大統領令で19ある省を経済、外務(、治安、司法、保健、内務、国防、インフラ、人的資源の9つへと半減させた。そして、以下のことを次々に実施した。
・アルゼンチン・ペソの切り下げ
・国営広告の1年間停止[
・開始していない公共事業計画の停止
・エネルギーと輸送関連の補助金の削減
・アルゼンチンの政治的習慣である家族や友人との労働契約の停止
・児童手当とフードカード(低所得者、無所得者が栄養のある食品を購入できるように支援する制度)に割り当てられた金額を倍額
・輸入システムの簡易化
・公務員を7000人削減する政令を公布
・最低賃金の引き上げを30%に制限
・学用品の購入と私立学校の授業料の支払いを支援するための「教育バウチャー」 の開始と減税
どうだろうか?
これと同様なことを日本の政権ができるだろうか? できるのは、これと真逆の省庁増設(なにかあると「子ども家庭庁」「デジタル庁」などをつくる)、公務員数の増加、そして、補助金などのバラマキ(低所得者層への給付など)だ。実際、ここのところ、歴代政権はこればかりやっている。
アルゼンチンをダメにした左翼ポピュリズム
これまでアルゼンチンは何度もデフォルト(債務不履行)を起こしている。直近では、2020年5月、グローバル債の利払い猶予期間内に5億300万ドルの支払いができずにデフォルトしたが、これが建国以来9度目のデフォルトだった。
ここ四半世紀で最大の危機は、通貨危機が招いた2001 年末の「対外債務のモラトリアム(支払猶予)宣言」というデフォルト。その結果、翌年1月には、固定相場制を放棄して変動相場制へ移行したが、これによりペソの相場は一挙に 3分の1に暴落し、景気は大幅に後退した。
この大混乱を経て、2003年5月にペロン党政権が復活した。
ペロン党というのは、第2次大戦後に誕生したフアン・ドミンゴ・ペロン大統領が率いる左翼ポピュリズム政党で、下層労働者の熱狂的な支持の下に大規模なバラマキを行った。そのため、アルゼンチンは、何度もハイパーインフレに見舞われ、経済成長は止まった。それなのに、危機が起こると、国民受けをするバラマキ(国民救済)を宣言するペロン党が復活する。
ペロン党のバラマキでかえって貧しくなる
ペロン党政権は2015年まで続いたが、最終的にバラマキでペソを大幅下落させ、8度目のデフォルトを招いた。
この後、マウリシオ・マクリ(ブエノスアイレス市長)が大統領となり、中道右派政権を樹立し、改革を進めた。しかし、行き過ぎた財政・金融の引き締めとブラジルの景気悪化によって経済成長率がマイナスに陥り、失業率と貧困率が上昇したため、またしてもペロン党が政権を握ることになった。
ペロン党はバラマキをする以外に能がない。それで、国民は一時的に救われたが、そこに襲って来たのがコロナ禍で、経済は一気に悪化した。これにより、前記した9度目のデフフォルトとなり、それ以降、アルゼンチン経済は低迷を続け、2023年末にミレイ大統領の誕生となったのである。
アルゼンチン経済を支えているのは、農業・畜産業である。主要輸出品は、トウモロコシ、小麦、大豆、牛肉などで、農業・畜産業が輸出の5割を占めている。
したがって、干ばつなどの気候変動の影響を大きく受ける。そのため、デフォルトを繰り返す経済をいちがいに政治の失敗とは言えないが、それでもバラマキはいけない。これにより、国に頼る国民が増えれば増えるほど、市場経済、競争は阻害され、イノベーションは起こらず、バラマキとは裏腹に国民は貧しくなる。
この続きは1月21日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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