連載87 山田順の「週刊:未来地図」どうなる米朝会談(3)(上)アメリカと世界が陥った戦争と平和のジレンマ

 今回は、4月末に行われた「南北首脳会談」を踏まえて、「今後数週間以内に行う」(トランプ大統領)という米朝首脳会談を、「戦争と平和」という真っ正面の視点から考えてみる(編集部註:本記事の初出は5月1日)。
 トランプ大統領と金正恩委員長という、あまりに特異なキャラクターの2人が正面からぶつかるわけだから、一気に進んだように見える南北の融和とは裏腹に、まだ戦争になる可能性も残っている。
 いくら時代が進んでも、なぜ戦争はなくならないのか? いったい、戦争とはなんなのか? なんのためにやるのか? そしていま、戦争をどう捉えたらいいのか? を考える。

北朝鮮は「南北会談」を翌日になって報道

 やはり北朝鮮は、世界中のメディアが“歴史的な会談”と大報道した4月27日の「南北首脳会談」を生中継しなかった。朝鮮中央テレビが報道したのは、翌28日のことで、大幅に編集したうえ、金正恩の肉声は流さず、すべてがナレーションだった。
 これは、韓国や世界の反応とは隔絶したものであり、北朝鮮は少しも“変わっていない”といえるだろう。

 しかし、変わったこともある。南北両首脳が調印した「板門店宣言」は、なんと全文を紹介し、なんら隠すことなく報道した。また、「完全な非核化を通じた核のない朝鮮半島」という表現もそのまま使った。
 もちろん、世界中のメディアがハプニングとした軍事境界線を越えた両首脳の硬い握手も、2人だけの屋外ベンチ会談の映像も流した。
 これは、これまでの北朝鮮を見てきた人間にとっては、大きな変化である。もちろん、会談を「わが民族の祖国統一史に特記すべき歴史的な瞬間」と表現し、それを導いた金正恩の指導力を褒めたたえたのは仕方ないとしても、“宣言は嘘ではない”と思わせるに足りる十分なものだった。

 はたして、北朝鮮は本当に核を放棄するのか? そして、そのプロセスを世界に公開し、そのうえでアメリカと平和条約を結ぼうとしているのか?
 いずれにしても、それがはっきりするのは6月に予定されている「米朝首脳会談」(U.S.-North Korea summit)の後だ。

メルケル独首相そっちのけで自慢話

 トランプがこの問題に関して、とんでもなく「楽観的」(optimistic)なのは、これまで何度も述べてきたとおりである。まずツイッターで「いいことが起きているぞ」と言い、ホワイトハウスでドイツのメルケル首相との会談後の共同記者会見では、調子に乗って開催場所の候補を「2カ所に絞った」と明かしてしまった。
 米メディアはこれを受けて、シンガポールかウランバートルと報道した。しかし、その後、4月30日になってトランプは「板門店もいいかも」とツイートしたのだから信じがたい。

 メルケルは、記者会見でアメリカの貿易政策に釘を刺した。彼女はEUがアメリカの保護主義政策に反対であること、そしてイラン政策の変更に懸念を表明するため、ワシントンにやって来た。
 しかし、トランプは聞く耳を持たず、米独の問題より北朝鮮問題の“手柄”を嬉しそうに話したのである。さらにトランプは、南北会談の結果に「勇気づけられた」とも言い放った。

「ノーベル賞」「そいつはすごくナイスだ」

 メルケルと会談した翌日、4月28日、トランプはミシガン州の支持者集会に出かけ、北朝鮮問題に触れると、支持者から「ノーベル賞、ノーベル賞」という歓声が上がった。あまりにノーテンキな歓声、ヤラセとも思える歓声に、トランプは親指を立てて満面の笑みを浮かべた。そしてなんと、こう言ったのである。

 “That’s very nice thank you…‘Nobel’…I just want to get the job done.”
(そいつはすごくナイスだ。ありがとうよ。まあ、オレは仕事をやり遂げるだけさ)

 さらに、トランプはこう付け加えた。

 “And…err…we’ll be doing the world a big favor. We’ll be doing the world a big favor. Let’s see how it goes, I think we’ll do fine.”
(えーと、われわれは世界に大きな喜びをもたらす。世界に大きな喜びをもたらすんだ。どうなるか見ていてくれ。オレはうまくいくと思っているぜ)

“キム&ムーン”がノーベル賞候補1番手に

 実際のところ、米朝首脳会談をトランプが受け入れた後、英ブックメーカーは、トランプを今年のノーベル平和賞候補の1番手に挙げていた。オッズは2から3倍。
 ただ、南北会談後は、金正恩(Kim Jong-un)と文在寅大統領(Moon Jae-in)の“キム&ムーン コンビ”を1番手に指名し、なんと1.5倍のオッズをつけた。実の兄を毒殺してしまう独裁者にノーベル平和賞とは、英ブックメーカーもジョークが過ぎるが、その結果、トランプはオッズ10倍の2番手に落ちた。

 いずれにせよ、こうしたトランプの楽観を裏付けるように、4月29日になると、韓国政府は南北首脳会談の内容を小出しに発表した。まず、金正恩が「終戦や不可侵を約束するなら核は不要との認識を示した」こと、続いて「豊渓里(プンゲリ)の核実験場を5月中に閉鎖し、専門家やメディアに公開する」といったことなどだ。

 さらに日本に対しては、「北朝鮮は話し合いに応じる用意がある」と、文大統領が安倍晋三首相に電話で伝えてきて、「喜んで仲介する」とまで言ったという。
(つづく)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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