Vol.64 映画監督 夜西 敏成さん、脚本家 矢野 堅太郎さん

映画監督 夜西 敏成さん
脚本家 矢野 堅太郎さん

日本映画の枠を超えていくような作品を撮っていきたいですね

 マンハッタン区で先月8日、9日にアクション映画の祭典「アーバン・アクション・ショーケース・エクスポ(UASE)」が開催された。長編部門に「サファイア」、「スティールアンジー」がノミネート。日本人監督として初の快挙となった夜西敏成監督と、脚本を担当した矢野堅太郎さんに話を聞いた。(荒畑藍実 / 本紙)

左から俳優の濱田利秀さん、主演のアンジェリーナ・ボラコバさん、夜西敏成監督、脚本家の矢野堅太郎さん

今回の映画を撮るにあたり、コンセプトとして念頭に置いたこと、アクション映画にこだわった理由は?

夜西:僕は、「スターウォーズ」などの大作アクション映画の影響を受けて育ったせいもあって、ハリウッド映画のように海外の観客に目を向けた映画を撮ることを当初から考えていました。日本人だからといって日本人を起用した作品を撮る気は全くなく、海外の俳優を起用して、国際色豊かなものになるように意識しました。また、海外の映画祭に行くたびに、日本のアニメ人気を実感したことも大きいですね。ハリウッド映画にも出てくる、日本のアニメからヒントを得た映像感覚を逆輸入する形で取り入れ、今回の作品のようなソード(刀剣)アクションに反映しました。

矢野:僕の方は、もともとはアクション映画にさほど興味がなく、中学時代からハリウッド映画よりイタリアやフランスなどのヨーロッパ映画に魅了されてきました。ジャンルもアート系の映画やバイオレンス映画の脚本を書きたいと思っていました。でも、夜西監督と出会い、全く違う作風に影響を受けてきた者同士でも化学反応が起きて、今までにない映画の魅力が生み出せるのではないか、と思ったんです。とは言っても、アクション映画の脚本を書くのは今回が初めて。映画を撮り始めてから、何度も脚本に手直しを入れましたし、当初よりアドリブが多くなったのは事実です。大変でしたが、元々のストーリー設定を残すことは意識しましたし、監督もそれに応えてくれました。

キャスティングで気をつけたことは?

夜西:主人公をはじめ、外国の俳優を多く起用した理由は先に述べた通りです。出演者全員、日本語が話せたので、意志の疎通にはほとんど困らなかったですね。今回、ソードアクションを入れると決めてから、主人公を演じる俳優には、プロの殺陣師に手ほどきをしてもらいました。準備期間だけでなく、撮影中も本人たちが出ていないシーンを撮っている間も練習に集中してもらいました。彼らの熱意で、クライマックスのアクションシーンもリアリティが出たように思います。

矢野:脚本の手直しがあるたびに、必要になる場面が増えるというようなこともあったので、臨機応変に自分も手のアップやマスク姿の役を引き受けて、「役者」に挑戦しました。(笑)

お2人の共通点はありますか?もし、あるとしたらどんな点ですか?

矢野:夜西監督は海外志向。エンタメやビジネスと直結した考えを持って映画を撮っているし、セルフプロデュース力もあります。私にはその要素が全くなかったですし、影響を受けてきた映画のジャンルも異なります。でも、海外の作品にも負けないスケールの大きい凝ったものを撮りたいという、「クオリティー追求」への想いだけは一致していると思います。だからこそ、この映画を作ることがだきたんだと確信しています。練習に集中してもらいました。彼らの熱意で、クライマックスのアクションシーンもリアリティが出たように思います。

11月8日、9日に行われたアーバン・アクション・ショーケース・エクスポ(UASE)

ニューヨークでの反応はいかがでしたか?

夜西:日本では得られなかった反応や反響をいただきました。今回の映画祭で自分の作品が上映されたとき、アクション映画にもかかわらず、観客の中には感動して泣いている人もいたんです。盛大に拍手してくれてすごく褒めてくれて…。公共の場での感情表現を控えがちな日本人とは違って、海外の観客からの反応はダイレクトで分かりやすい。それがとてもうれしく、励みにもなりました。また、作品の良し悪しだけでなく、海外における「字幕文化」の薄さというか、想像していたより字幕が普及していないことにも気づかされました。映像を見ながら文字を読むという並行作業は、クオリティーの高い映像を見せたいと思ったとき、じゃまになることに気づかされました。これは映画を製作するうえで大きな意識変革になりましたね。

今後の目標をお聞かせください。

夜西:今回の映画祭で初めて知ったのですが、アフリカ系の人たちはカンフー映画が好きなようです。ガン(銃)アクション、ソードアクションと製作してきたので、次はカンフーを撮りたいな、と。そしてこれからも、国境を超えた素直な反応に触れたいので、海外向けの映画を撮りたいと思っています。そのためにも、セリフが全て英語の作品にもチャレンジしたいです。日本映画の枠を超えていくような作品を撮っていきたいですね。

矢野:夜西監督の影響もあり、国外への意識が高まっています。英語でのシナリオ作りにも興味が湧いているので、夜西監督とまた一緒に作品を作る機会があればうれしいです。まだまだ実績が少ないので、これからプロの脚本家としてもっと経験を積んでいけたらと思います。

夜西敏成
映画監督。1967年滋賀県出身。会社員を経て、40歳過ぎで映画監督に転身。2015年に未完成の映像ダイジェストをアクション映画専門映画祭「シネマジャクション」に出品したところ、アニメ映画の巨匠、押井守監督から編集賞を受賞。17年に自費を投じて作った処女作「サファイア」が、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」「ハンブルク日本映画祭」で上演され話題を集めた。

矢野堅太郎
シナリオライター。1994年大阪府出身。2018年に神戸芸術工科大学、映像表現学科映画コースを卒業。2018年度の映画「スティールアンジー」で脚本家としてデビュー。好きな映画監督はイタリアの名匠フェデリコ・フェリーニ。