連載298 山田順の「週刊:未来地図」ニッポンの貧困、アメリカの貧困(第六部・下) 貧困層ばかりか富裕層も困窮する デジタルエコノミーと金融緩和の暗い未来

リセッションと金融バブルの崩壊がやってくる

 富裕層が抱くもう1つの不安、金融バブルの崩壊は、やがてやってくるのが確実視されている。現在、世界全体で経済成長が低迷しているのに、NYダウも日経平均も最高値をつけている。
 これは、中央銀行による金融緩和のせいである。お金が、実際の投資に向かわず、金融商品に向かっているだけだからだ。しかも、世界の金融は、金利ゼロの世界に突入している。
 金利ゼロの世界では、お金は増えない。まして、マイナス金利となれば、お金は持っているだけで目減りする。こんな世界では、いくら働いてお金を得ても、それを貯めていくだけでは、お金持ちになれない。貧困層は貧困から永遠に脱出できない。

 昨年10月18~20日にワシントンDC開かれた国際通貨基金(IMF)と世界銀行(WB)の年次総会は、各国から集まった財務相や中央銀行総裁らが、悲鳴を上げただけで終わった。その悲鳴の矛先は、もちろん、全世界相手に貿易戦争を始めたトランプである。
 各国とも軒並み、経済成長率を引き下げ、世界全体では今年の成長率が3.0%と、過去10年でもっとも低い伸びになると発表された。そればかりか、今後、世界はリセッションに向かい、リーマンショックの再来があるかもしれないとされたのだ。
 リーマンショック並みか、いやそれ以上の金融崩壊が起これば、政府の財政は悪化し、倒産する企業が続出する。社会福祉や公的年金の財源がなくなり、セーフティネットは機能しなくなる。となると、それに頼って生きてきた貧困層の人々の生活は、真っ先に破綻する。中流から貧困層に転落する人も増える。

政府は余計なことをし過ぎではないか

経済は自律的なものである。好景気と不況が交互に訪れる。そんななか、産業構造は常に変化していく。このようななかで、資本主義の下では、金持ちも生まれるし、貧乏人も生まれる。だから、すべての人々に平等に恩恵をもたらす経済政策や金融政策などはあり得ない。富の再分配をいくらやっても、資本主義である限り、富はどこかに集中する。
 では、そういうなかで、政府はどうしたらいいのだろうか?
 資産課税や大企業への課税強化などで、富裕層から富を奪い、それを貧困層に与えればいいのか。いちがいにそうと言えないのは、この連載の冒頭で述べたマーガレット・サッチャーの、次の言葉で明らかだ。

「The poor will not become rich even if the rich are made poor.」
(お金持ちを貧乏にしても貧乏な人はお金持ちになりません)

 とはいえ、トランプの大型減税策やFRBへの金利引き下げ強要などの政策、そして、日本のアベノミクスなどは、産業構造が変わるなかで、かえって貧困層を拡大させただけだった。最悪なのは、日本の異次元緩和と消費税の引き上げだ。なぜ、こんな愚かなことをしたのだろうか。
 ともかく、いまの政府はポピュリズムに冒され、余計なことをし過ぎのように私には思えてならない。残念ながら、貧困問題を解決する妙薬はない。言えることは、これ以上、貧困層が拡大しないために、際限ない金融緩和をやめ、社会福祉政策をもう少し充実させるべきだということだけだ。日米とも、いま、難しい選択に迫られている。(了)

*今回で、「ニッポンの貧困、アメリカの貧困」連載記事を終わる。ご愛読ありがとうございました。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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