連載556 山田順の「週刊:未来地図」なぜ日本は「デジタル後進国」になったのか?(中1)

連載556 山田順の「週刊:未来地図」なぜ日本は「デジタル後進国」になったのか?(中1)

各省庁の出向者が民間採用者を使う組織

 この5点以外にもまだあるだろうが、ここで言えることは、この5点を放置したまま掛け声だけでデジタル化を進めても、それはかたちだけで終わってしまうのではないかということだ。

 発表されているデジタル庁の構想を見ると、ますますそう思えてくる。

 まず、デジタル庁は内閣直属の組織となるという点が問題だ。つまり、トップはデジタルリテラシーが低い首相が務めるわけで、常に最終判断を首相とその補佐官(取り巻き)がするとなると、また、アベノマスクのような見当違いのことが起こってしまうのではと危惧される。

 次に、デジタル庁の職員だが、これは500人規模を予定しているというが、その中身が問題だ。職員のうち、4分の3は各省庁からの出向者で固め、残り120名あまりを民間から採用するという。つまり、この組織はこれまでデジタル化ができなかった各省庁の官僚の寄せ集めにすぎない。そして、4分の1の民間採用者は、彼らの手足として使われるだけだ。

 これで、なにが起こるかは、容易に想像がつく。出向者は出身省庁向きの仕事をし、民間採用者はそれに振り回されるという構図である。さらに、民間採用者は、ハンコ廃止による電子認証システムやマイナンバー統合システムなどの構築を、自分たちとつながりのある企業に「丸投げ」してしまうだろう。

フランスも接触確認アプリで失敗していた

 ここで、日本と同じように、接触確認アプリで失敗を喫したフランスの例を見てみたい。

 フランスでは、昨年6月に、政府が接触確認アプリを開発し、国民にインストールを求めた。ところが、インストールした人は、全人口の5%にも達しなかった。デジタルによるトレースは、「国民の自由を奪い、自由を重んじるフランス文化に合わない」と、各方面から批判が続出したからである。

 フランスのアプリは、ほかのEU諸国が分割管理だったのに対して、政府が情報を一括管理するシステムになっていた。この点も、国民は嫌った。

 そこで、フランス政府はアプリを改良し、そのうえで、外出禁止免除証明書へのリンクを付けるなど利便性の向上にも務めることになった。

 そうして、9月には、策定した経済回復を促す景気刺激策の一環として、デジタルトランスフォーメーション(DX)を促進する予算を大幅に拡充した。

 予算規模1000億ユーロ(約13兆3000億円)のうち、デジタル投資に70億ユーロ(約9300億円)を充てることにした。フランスではすでにITイノベーションに焦点を当てた投資プログラムが立ち上がっていて、これに110億ユーロ(約1兆4600億円)が投じられていたが、さらに70億ユーロが加わることになったのである。

 こうしたフランスの動きと日本を比べてみると、日本の場合、予算計上はフランスと変わりないが、その具体的な使い道が見えてこない。

 日本政府は2020年度第3次補正予算案と2021年度当初予算案を一体編成した「15カ月予算」を編成し、予算をデジタル分野に重点的に配分することにしている。その規模は、約1兆7000億円である。

 このうち約5160億円が、行政のデジタル改革関連に注ぎ込まれる。ただ、デジタル庁創設に関して実際に使われる予算は、368億円である。アベノマスクより少ない。

 EUでは、この6月半ばからデジタルによるワクチンパスポートが発行されることになっている。しかし、日本は発行することを検討しているとは言っているが、紙の証明書が先で、デジタルパスポートができるかどうかもわからない。

(つつく)

この続きは6月22日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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