トランプもバイデンも結局同じか。 アメリカ覇権が後退し続ける混沌世界の到来(下)

経済制裁が本当に効くのはこれから

 ロシア報道と同じく日本のメディアの報道が偏っているのは、中国報道である。中国経済がいまにも崩壊するという希望的論調の報道が多い。
 たしかに、中国経済は、不動産バブルの崩壊、アメリカ中心の西側からのデカップリングで不調に陥っている。しかし、いますぐにも崩壊すると言うようなことはない。ただ問題は、それが今後どうなり、世界にどう影響するかである。
 今年になって、中国が明らかに違ってきたのは、デカップリングから逃れないとまずいと、習近平政権が思うようになったことだろう。とくに、このまま対米対立を続けるのは、国益にそぐわないと考えたようだ。
 3月27日、 習近平は珍しく、訪中したアメリカ企業のトップらと会談した。その席で、「世界経済の回復を推し進めるには両国の連携と協力が必要だ」と、関係強化を呼びかけた。その言い方は強気ではあるが、本音は、半導体を中心とした制裁を解除してほしい。もっと、中国に積極投資をしてほしいということだ。
 これにアメリカが乗るかどうかは、バイデンおよび次期大統領次第だが、バイデンもトランプも「取引材料」が有利なら応じる可能性がある。
 いずれにせよ、中国が宥和政策を取り始めたのは、経済が相当悪いということだ。

力の弱い者に対して強硬姿勢を取る中国

 現在、中国が抱える経済問題は、まとめると4つある。不動産バブルの崩壊、地方政府を中心とする過剰債務、輸出の急速な減少、そして国内の個人消費の低迷だ。
 このうち、個人消費の低迷は、国民生活が困窮化しているということだから、政権維持に大きく影響する。
 歴史を見ると、世界の大国は国内に問題があるとき、次の2つの外交政策を取る。
 1つは、国内の困難から国民の目をそらせるため、対外的な強硬姿勢を強めること。これは、軍事的冒険主義に乗り出すことにつながり、周辺国は大きな迷惑を被る。
 もう1つは、経済的な損出を防ぐため、対外的な宥和政策を取り、外の力を内に取り込もうとすること。
 どうやら、中国は2番目の宥和政策に出てきたようだが、中国の場合、これを自分より力が強い者には取るが、弱い者には取らないことが問題だ。現在、フィリピンと揉めている南シナ海の領有問題を見れば明らかだろう。
 中国の海警局の艦船は、フィリピン艦船に「体当たり」「放水」を繰り返し、乗組員に怪我までさせている。尖閣諸島問題、台湾有事を抱える日本にとって、この中国の姿勢は、本当に厄介な問題と言うほかない。

グローバルサウスという厄介な存在

 ここまで、アメリカ覇権の後退という観点から、ロシア、中国を中心に見てきたが、欧州とグローバルサウスにも注目する必要がある。
 ただ、欧州に関しては西側なので、アメリカ経済と一体と見てよく、盟主ドイツがアメリカの言うことを聞くかぎりは大きな問題はないだろう。いくら、米大統領がトランプになろうと、欧州はアメリカ覇権のなかでの経済圏、生活圏を維持していくほかない。中立政策を保っていたフィンランド、スウェーデンまでNATOに加盟した。英国も同じである。
 となると、問題はインドやブラジルなどのBRICSとグローバルサウス諸国である。彼らは、アメリカ覇権下における発展よりも、ナショナリズムを重視し、アメリカにも中ロにもいい顔をして、国益を引き出そうとする。
 つまり、中ロを天秤にかけた「コウモリ外交」をやっているから、日本にとっても厄介である。(つづく)

この続きは5月3日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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