浅沼(Jay)秀二シェフ 世界の食との小さな出逢い 第14回 マラケシュでミントティー③

マラケシュでミントティー③

イラスト浅沼秀二

イラスト浅沼秀二


「ガンパウダーを探しているんだけど…」
 格子になったアーケードの屋根板の隙間から、薄明かりが差し込むその店には、謎めいたものが所狭しと並んでいる。おまけにどこかイカつい感じの店番もちょっと気になる。しかし、たしかに教えてもらったのはスーク(市場)のこの店のはずだ。なのでここは、思い切って尋ねてみた。すると、店番はこちらをジッと見据えたままこう答えた。
「ガンパウダー?ああ、あるよ」
そう言って立ち上がると奥へ入って行った。
「これのことだね…」
持って来た箱をよく見ると、確かに英語でガンパウダーと書いてある。ほんとにこれなのだろうか? ミントティーのポットに入っていたものが弾薬だって? 箱を振ってみると、粒状のものが詰まっているような音がする。まさかと思いながら裏返すと漢字の表記もあり、そこに書かれた文字を目で追うと、だんだん分かり始めてきた。「そういうことか…」ともかく箱を開けてみた。
 それはいつの時代に始まったのか、東の国の商人たちは遥か西を目指した。ガンパウダーもかつてはラクダの背に揺られ、シルクロードを越え、やがてアフリカ西端のモロッコにまで運び込まれたのだろう。
 手のひらに転がったもの、それは5ミリほどの玉状に揉捻された中国原産の「珠茶」という緑茶だった。東の果てから西の果てへ運ばれた珠茶、それが異なるバックグラウンドを持つミントと、ポットの中で新たな茶の文化をインフューズ(抽出)したというわけだ。
 やっぱりちょっとイカつい感じの店番にお金を払い、アーケードへ出た。格子屋根から降る遮光が、行き交う人々のそれぞれ異なる背景を照らしている。歩き出したぼくもまた、ひとりの異邦人となってスークの群衆に紛れた。
おわり

■モロッカン・ミントティーのレシピ(2杯分)
材料
水カップ2杯、ミント茎ごと4本、ガンパウダー小さじ2杯(煎茶でも可)、甘味料は好みで、ポットとティーグラス

1 ポットにミントとガンパウダー(煎茶)を入れる。
2 熱湯をポットに注ぎ1分待つ。
3 ティーグラスへ注ぐ。できれば少し高いところから空気を混ぜるように。
4 ネットでモロッカンミュージックを流し、スークをさすらう異邦人の旅情を味わう。


浅沼(Jay)秀二
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理などの経験を活かし、「食と健康の未来」を追求しながら、「食と人との繋がり」を探し求める。オーガニック納豆、麹食品など健康食品も取り扱っている。セミナー、講演の依頼も受け付け中。
ブログ:www.ameblo.jp/nattoya
メール:nattoya@gmail.com