ファッションライターあやこんぶの“おしゃクロ!” Vol.5 100年以上前のビール倉庫を改造して 造り上げた本格チーズ・ケイブ

 DIYカルチャー、ファーム・トゥ・テーブルなど、産地直送や手作り製品が大きく注目されている今日この頃。無類のチーズ好きであったある夫婦が自宅の地階に本格的なチーズ熟成庫を作り、ブルックリン・メイドのフレッシュなチーズ作りを始め、大きく注目されています。
 彫刻家であったベントン・ブラウン、スーザン・ドイル夫妻はアトリエ兼住宅として利用できる物件を探していました。2001年、引っ越し会社が使っていた築130年以上の倉庫スペースを買い上げ、趣ある煉瓦造りの外壁を残し大がかりな改築を計画。夫妻は芸術家の友人と共にできる限り手づくりにこだわり、約10年の歳月をかけ、少しずつ住居と、オフィススペースを完成させていきました。家の中を見渡すと、キャストアイアン製の風呂桶、1960年代の救急車の後部扉をもとに作ったクローゼット、リカーキャビネットを利用した食器棚など、古き良きものを上手に再利用している様が見てとれます。その夢のような自宅のようすは多くの雑誌やカタログに登場しています。
 改築が完成した後、「大きなパズルの最後のピースを完成させる時が来た」と夫妻の趣味と実益を兼ねた計画を考えました。約4万平方メートルという広大な建物の地階は1850年頃から約60年の間、ラガービールの貯蔵庫として使用されていたものの、長い間未使用のまま残されていました。その地階を利用し、着想から約5年ほどかけ、念願のチーズ熟成庫を作り上げました。
 ブラウンさんは本場フランス・ベルモントで約30年乳製品づくりに携わるピーター・ディクソン氏の元に師事し、現地でノウハウを学びました。畜産農家から牛乳を仕入れ、ウォッシュ作業、熟成期間を経て製品化。「もっとも必要なのはフレッシュな空気を循環させること。1時間ごとに熟成室の空気を総入れ替えします。そして食の安全を保つために、すべての器具を定期的に実験室に送り、検査にかけます。この部屋に入る場合は、殺菌した作業服、靴に履き替え、悪いバクテリアが入らない完全に清潔な状態を保たねばなりません」。

常時7種類前後のチーズを扱う。華氏52度、94%の湿度を保つための設備や機材の多くは本場フランスから取り寄せた


 チーズ製造の最終工程、フィニッシュを担うチーズ・ケイブとして、ブルックリンのクラウン・ハイツにあることから、クラウン・フィニッシュ・ケイブスと名付けられています。「時に小さな自家製チーズ・ケイブを持っている店もありますが、こういった本格的なものはマンハッタン、ブルックリンにもここだけでしょう」と言うように、チーズ作りは好きが高じるだけでは実現しない細心の注意を必要とする骨の折れる仕事。クラウン・フィニッシュ・ケイブスはホール・フーズ・マーケットなどで入手可能。4~6ヵ月熟成したものから、30日という短期熟成のフレッシュなチーズ、生乳から作ったチーズなどをより新鮮な状態で提供しています。

ベントン・スーザン夫妻、息子のマッギンリー君、娘のノラちゃんの4人家族は猫2匹とともに暮らしている

Crown Finish Caves
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フリー・ジャーナリスト
Aya Komboo
www.ayakomboo.com
日本では数々の出版社で経験を積み、フリーランスへ転身。2006年よりロサンゼルスへ渡米し、現在はニューヨークを拠点にファッション/カルチャー誌などで活躍している。