大竹彩子(焼酎&タパス 彩) 焼酎ソムリエの「つまみになる話」毎月第4月曜号掲載 第六回 麦焼酎発祥の地、壱岐が産んだ花酵母仕込み「なでしこ」

 今月、素晴らしい戦いでサッカー女子W杯世界第2位に輝いた、なでしこジャパンは皆さんの記憶にも新しいところ。今回はチームの呼び名と同じ、麦焼酎「なでしこ」のお話です。「なでしこ」の特徴と言えばその名の通りなでしこの花酵母を使って仕込まれていること。そしてWTO(世界貿易機関)から「壱岐焼酎」という呼称を認められている長崎県壱岐島出身の麦焼酎です。
 産地の壱岐は九州北部に浮かぶ長崎県の離島です。透き通る海に囲まれ新鮮な水産物が豊富で、近隣の福岡の文化からも影響を受けているとのこと。そんな壱岐島が麦焼酎に特化するきっかけになったのは遥か昔、戦国時代末期から明治時代初期にさかのぼります。当時壱岐島では清酒造りが盛んでしたが、年貢として米を納めなければならなくなった島民は原料不足にあい、年貢の対象ではなかった大麦で焼酎造りを始めました。それが今の壱岐焼酎の始まりです。壱岐焼酎の特徴は米麹と大麦を1:2の割合で仕込んでいることと、壱岐島内の地下水が使用されていることです。麦焼酎や米焼酎の産地でも近年は芋焼酎を飲む若い世代が増えている中、島内では変わらず壱岐焼酎を飲みながら地元の海で獲れた鮮魚に舌鼓を打つ島民が多いとのこと。なんだか嬉しいですね。
 壱岐焼酎を造る蔵7のうちの一つが今回の主役、花酵母を使って造られた世界初の焼酎である「なでしこ」を造る壱岐の蔵酒造(株)です。花酵母を発見したのは東京農業大学短期大学部醸造学科の中田久保教授。同校の卒業生でもある同蔵の蔵元兼杜氏の原田知征さんが、中田教授から譲り受けた花酵母のサンプルで焼酎造りを始めたのが2001年のこと。業界初の花酵母仕込みは1年以上の試行錯誤の末に商品化されました。一番気を抜けないのが温度管理です。元々清酒造りのために発見された花酵母は、焼酎造りに使用される白麹や黒麹(清酒には黄麹が使用される)の作り出す酸に対しての抵抗力が弱いため発酵力も弱く、花酵母仕込みの特徴である華やかな香りと風味を出すことができませんでした。それを克服したのが最初の仕込みから低温でじっくりと時間をかけて仕込むことで、おかげで香りを出すことに成功しました。現在も日々細心の注意を払い、機械と人の両方で行う徹底した温度管理によって「なでしこ」が造られています。
 焼酎とは思えぬ優雅な風味の「なでしこ」は、とても華やかで口当たりが軽く、まろやか。花酵母で仕込むことによって全く新しい焼酎との出会いを私たちにもたらしてくれた壱岐の蔵酒造、今後の夢は、海外の全てのリカーショップに「SHOCHU」の棚をつくること。その次世代に続く夢実現のために、花酵母仕込みに留まらず、新しい挑戦を続け日本が世界に誇る「SHOCHU」という名を轟かせたい、と原田氏は語ってくれました。今や世界で知らぬ人はいないであろうなでしこジャパンのように、世界初花酵母仕込み焼酎「なでしこ」が世界中のリカーショップに並ぶ日はそう遠くないかもしれない。

本日の〆
「なでしこ」の製造段階で、テイスティングの際にどうも香りが違うなと思い確認すると、手違いで送られてきていたのは日々草(ニチニチソウ)酵母のサンプルだったそう。せっかく造り、なかなかの美味だったことからそちらも日々草酵母仕込み「玉姫」として「なでしこ」と同時に発売されました。こちらはニューヨークでは販売されていませんが、日本に帰国した際にはぜひお試しを。


大竹彩子
東京都出身。2006年、米国留学のため1年間ミネソタ州に滞在。07年にニューヨークに移り、焼酎バー八ちゃんに勤務。13年10月に自身の店「焼酎&タパス 彩」をオープン。焼酎利酒師の資格をもつ。

焼酎&タパス 彩
247 E 50th St (bet 2nd & 3rd Ave)
212-715-0770 www.aya-nyc.com