NYC公立中学進学に向けて準備できること(2) NYC Public Middle Schools (2)

 前回9月号では公立中学進学に向けて実際に進学する前に準備できること、知っておくと良いこととして、ニューヨーク市独特といえる進学のプロセス、願書提出の方法と時期(アドミッション・プロセス)、各種選抜方法(アドミッション・メソッド)の存在、そして学校見学の予約のコツを紹介した。(表1)
 今回は、中学を意識する3、4年生時に頭に入れておくと良いことを紹介する。

受験目前の仕切り直しはできない?

 前回述べたように、中学の選抜システムが日本流の「中学受験」と「合格」という単純明快なプロセスではないため、今までやる気が無かったが、受験直前に何かのきっかけで、俄然やる気が出て成績向上、希望校進学を果たすというストーリーにはなりにくい。
 まず中学1年目である6年生(以下6G)が始まるのが9月、そのための学校個別の選抜試験やインタビューが実施されるのが半年前の2月だ。学校別の選抜を行わない学校では、前年の12月提出の願書に記載される成績や出欠日数、生活態度の評価が査定対象になる。その願書に記載される出欠状況と成績、州テストスコアは4G時のもの。生活態度は、5Gの担任が記入する。つまり成績に関しては実際に6Gとなる一年半前の評価が決め手になる。
 では、4Gの成績が良ければよいのかというとそうでもない。選抜には「バランスを考える」という考えで、入学テストや成績だけで合否の線引きがされないからだ。

ルーブリック評価を理解する

 以前は、学校独自のテストの受験資格や、願書提出の足切りを、州テストスコアで決めることができたが、2年前からそれが禁止となり、公立中学進学の際は、いかなる場面でも、複数の視点から総合的に生徒を評価することが法律で義務づけられた。
 欠席日数、州テストスコア、4Gの成績、担任のレコメンデーション(生活態度評価)、学校独自に行う選抜方法の結果を各校何パーセントの比重で重きを置くかを決めている。州テストのスコアは考慮しない学校もある。またインタビューやエッセイ、テスト結果は公表されず、過去問も存在しない。各校のルーブリックは校長の方針が変われば変化する流動的なものでもある。
 これはテストスコア重視の風潮を是正すること、それによる社会経済学的要素に起因する生徒間の格差(裕福な地区ほどスコアが良い)を減らすための措置だが、ますますニューヨーク市の中学進学システムを複雑で不透明なものにしているという問題点も指摘されている。
 これらはトップ進学校だけに起こることではない。ニューヨーク市には、革新的な教育、芸術に特化した学校、ユニークな教育方針や、スペシャルエデュケーションに優れた学校など、各種の魅力あるプログラムにはどこも定員を超える願書が集まる。トップ進学校だから受験になるのではなく、どの学校も生徒を選抜せねばならない状況がある。
 希望する学校への受験資格がなかったと後悔しないために、この一発勝負になりにくいシステムの中では、日頃の継続的な基本的生活と学習をきちっと抑えることが重要になる。入試の点数ですっぱりと線引きする日本での「受験」「合格」とは様相が異なり、頭の切り替えが求められる。

中学生活をより充実させるために

 アメリカの中学生活は日本と同じ3年間。しかし高校受験も同じく中学2年目である7Gの成績や欠席日数が願書に記載されるため、入学1年で高校進学が視野に入る。そのため、中高一環教育校は生徒のみならず保護者のストレス軽減のためにも人気がある。高校進学システムは中学に増して複雑だ。生徒の個性によっては、ひとつのところでじっくりと学ぶことで能力が発揮されるタイプもあるだろう。
 学校は勉強だけではない。いかにいろいろな活動を経験できるかも重要だ。日本のような「部活動」システムのかわりに、スポーツならばチーム、文系ならばクラブという形でアフタースクールがあるが、学校ごとに無料か有料かという違いもでてくる。
 スポーツは自分のやりたい競技が存在するかどうかも生徒には大事な学校選択の要素になることもあるだろう。マンモス校はバラエティーに富んだ活動があるが、人気スポーツは参加希望数も多く、トライアウトをして参加生徒を選別することが多い。小規模校は生徒ひとりひとりへのアテンションは充実していても、スポーツチームやクラブ数が極端に少ないこともある。部活動は中学になってからという日本の感覚でいると、せっかく楽しみにしていたのに、参加できずに3年間終ってしまうということもありえる。
 授業も、アート系は選択か自動的にクラス分けになり、美術が好きなのに演劇選考のクラス分けになるなど、なかなか日本のように平均的な学校生活が想像しにくい。
 通学している生徒や学校説明会の話しを聞き、学校の成績やスコアだけでなく、子どもが自分を生かせる学校であるかどうか、という視点に立っての中学選びも大切だ。(文=河原その子)

Middle School Directoryにはディストリクト、シティワイドなど進学可能な中学校のリストが掲載されている

表1)

公立中学校 アドミッション・プロセス
①Middle School Admission のアプリケーションフォームで申し込む
各家庭でアプライ可能な全ての学校がリストされているアプリケーションフォームに、希望優先順位(ランキング)を記入して提出する。公立小学在学生は、学校のガイダンスカウンセラーを通して申し込む。

②School Based Application
上記のMiddle School Admission リストに参加していない中学校への願書提出。各校独自のプロセスに沿って、直接申し込む。

③チャータースクール
全て抽選。各学校へ直接申し込む。

④Hunter Collage High School
5年生のコモンコアテストスコアをもとに、試験に招待された生徒のみ6Gでアプライできる。
情報は学校のウエブサイトで。