大竹彩子(焼酎&タパス 彩) 焼酎ソムリエの「つまみになる話」毎月第4月曜号掲載 第十回 「川辺」いい水、いい米で

 国土交通省が毎年発表する一級河川水質ランキングで9年連続日本一位の清流があります。熊本県の球磨郡を流れる全長67キロメートルの川辺川です。その伏流水で造られる焼酎「川辺」。水と米だけで造られるこの純米焼酎は水だけでなく米も地元球磨郡相良村産の「ヒノヒカリ」を使用しています。この人吉盆地(人吉・球磨地方)では400年以上前から米焼酎が造られ、WTOに産地表示を認められている伝統の米焼酎のブランド「球磨焼酎」を造り、川辺もその一つです。
 川辺を手に取ると「限定品」とラベルにあるのですが、こちらは相良村の有志「サガラッパ21の会」との共同開発で、112年続く米焼酎の名蔵「繊月酒造」で造られ、商品化に至りました。近年では熊本県のみならず関東の有名百貨店やカリフォルニア、ニューヨークなどの飲食店でも取り扱いされるほどの人気ぶり。さらにその人気に拍車をかけたのは2013年のロサンゼルスインターナショナルワイン&スピリッツコンペティションで、焼酎部門堂々の最高金賞を受賞したことで、川辺は今や世界に誇る米焼酎の道を歩み始めたと言えます。
 はるか昔、もともとこの人吉・球磨の土地は山々に囲まれ、一見稲作には向いていないように見えていたのですが、幕府の監視の目が届きにくいことからこの地形を利用し、山間に隠れて耕作し租税を逃れた多くの〝隠し田〟があったそうです。そのことからこの地域では先人から受け継がれた豊富な水田と良質な水で米焼酎造りが盛んになったのではというおもしろいお話があります。また、前出の日本一の清流の水で育つその米は甘みがあり、まさに最高品質です。
 このようにこの地域の米焼酎造りは地元の良質な水と米が切っても切り離せない存在なのですが、特に「川辺」のお味の透明度は格別。どんな料理とも喧嘩せず、前出のロサンゼルスのコンペティションで世界の〝プロ〟の舌をも唸らせたことに納得させられます。
 「『川辺』の原料は水と米、ただそれだけ」。繊月酒造が掲げるこのキャッチフレーズ通り、そのシンプルでありながら、そしてシンプルだからこそ原料の管理から製造まで手間隙をかけ、品質を損なうことなくその上質な味を最大限に焼酎に生かそうと代々伝承されてきた最高峰の技術で造られる1本です。
 日本一の水とともに日本一の焼酎となってほしいです。

本日の〆
 繊月酒造では毎年5月に「繊月まつり」を開催しており、地元住民を中心に大賑わいだそう。なんと入場無料でさらに同蔵の焼酎を振舞っているというから驚き。地域の活性化にも多大なる貢献をされ、人々に愛されている焼酎蔵です。



大竹彩子
東京都出身。2006年、米国留学のため1年間ミネソタ州に滞在。07年にニューヨークに移り、焼酎バー八ちゃんに勤務。13年10月に自身の店「焼酎&タパス 彩」をオープン。焼酎利酒師の資格をもつ。

焼酎&タパス 彩
247 E 50th St (bet 2nd & 3rd Ave)
212-715-0770 www.aya-nyc.com