アメリカの 「ギフテッド教育」は自治体ごとにそのシステムは大きく違う。なかでも、ニューヨーク市教育局（DOE) のGifted and Talented Program（G＆T）はキンダー入学前のテストで生徒を選抜するという点で特殊といえる。このG＆T入学までのプロセスを２回にわたって紹介する。
G＆Tプログラムとは？
DOE発行の「G&Tハンドブック」によると、「秀でた生徒の教育ニーズを支援する」「コモンコア（学習指導要領）に沿った、特別な指導を行う」プロブラムだ。
「秀でた生徒」を認定する方法としてG＆Tテストがあり、「特別な指導」については、 各学校で選ぶ教材や指導方法はさまざまだとされている。
全ての学校で統一したカリキュラムがあるわけではないので、興味のある家庭は、 G＆Tを提供する学校の内容、こどもの適性などを総合して考える必要がある。
年齢ごとに発行される「G＆Tハンブック」 （上は2011年生まれ用）
G＆Tへの応募資格
ニューヨーク市在住であれば、誰でも無料で受験できる。最大のエントリーポイントはキンダー入学時だ。それ以降は空席次第で、３年生進学時まで毎年受験が可能で、４、５年生進学時は州テストのスコアで判定される。スペシャルニーズ（特別支援教育対象）であることも、受験資格には関係無い。
テスト申し込み締め切り後に転入した生徒には、夏に転入者用のテストが実施される。
G＆Tディストリクトとシティワイド
G＆Tには、スクールディストリクト内居住者のみ対象のディストリクトG＆Tと、ニューヨーク市居住者全員対象のシティワイドG＆Tがある。
ディストリクトG&Tは小学校のみのプログラムで、基本的に公立小学校内にG＆Tクラスとして存在する。シティワイドG＆Tは、G＆Tの生徒だけで構成されている学校で、現在６校（表１）あり、中学、もしくは高校までの一貫校になっている。
表１
ニューヨーク市教育局ウェブサイト：G＆Tページ
http://schools.nyc.gov/ChoicesEnrollment/GiftedandTalented
G&T入学までのプロセス
①タイムライン
G＆Tの入学を希望する場合、例年以下のタイムラインに沿って進む。情報は毎年更新されるため、必ず受験する年のハンドブックを確認する。
【10月】 DOE「G＆Tプログラムハンドブック」発表。
【10〜11月初旬】テスト申し込み期間。テスト日時・場所の通知。
【1月】 テスト実施。
【4月】 テスト結果通知 / 学校説明会 / 願書提出。
【5月】 プレイスメント（入学校決定）通知。
このように、プロセスはキンダー入学の１年前から始まり、入学前年10月のテスト申し仕込みを逃すと、受験はできなくなる。
②G＆Tハンドブック
G＆Tの説明、応募方法、日程、学校リスト、テストのサンプル問題が記載されている。DOEウェブサイトでPDFが公開され、冊子は公立学校、もし
くは各ボローのFamily Welcome Center（DOEサイト参照）で入手できる。
新年度ハンドブック発表の日時は決まっていないので、その頃にDOEのサイトを確認するか、DOEへのメール登録で、知らせを受けることもできる。最新版が出るまでは、前年度ハンドブックのPDFが掲載されているので、準備として目を通しておくことも可能だ。
③テスト申し込み（Request for Testing form =RFT）
ハンドブックの発表後、期限内にG＆Tテスト受験の申し込みをする。どの学校を目指すかを決める必要はない。申し込みは、オンラインか、ファミリーウェルカムセンターで行う。
公立校在校生は自分の学校で受験できるが、それ以外の生徒は指定された場所へ出向く。RFT提出時にテスト会場のリクエストがもできるが、申し込み順に受付けるので、なるべく早く申し込もう。
④テスト実施について
テストに時間制限はなく、こどものペースで進められる。
４歳児のテストは、テストのアドミニストレーターと１対１で行なわれる。解答は指差せばよいので、 鉛筆を使いこなす必要はない。「読む」「書く」「話す」力は必要とされないが、英語で「聞く」力は必要になる。
テストは「 バーバルテスト」「ノンバーバルテスト」の二種類が実施される。前者はアドミニストレーターが英語で話す問題に答えるOLSAT （Otis-Lennon School Ability Test）、後者はこどもが図柄を見て答えを選ぶNNAT-2 （Naglieri Nonverbal Ability Test）になる。両方のスコア各50％と、こどもの年齢幅を考慮して、最終スコアが1から99までのパーセンタイルで示される。同年齢でも1月生まれと12月生まれでは、解答数が同じでもパーセンタイルは変わる。
NNAT-2テストのサンプル問題
⑤テスト結果発表
スコアが 97〜99パーセンタイルの場合のみ、シティワイドとディストリクト両方のG＆Tに申し込む資格ができ、90〜96パーセンタイルの場合はディストリクトG＆Tのみへ申し込む資格を得る。該当生徒には生徒の居住地とスコアをもとに、申し込み可能な学校リストが記載されたアプリケーションフォームが同封されるので、そのリストに入学希望順位をつけてオンラインか郵送で申し込む。
⑥プレイスメント：スコアと抽選
毎年90パーセンタイル以上のスコアを取る生徒が全G＆Tの席数より多くなるため、スコアはG＆Tへの入学を保証するものではない。プレイスメントは得点の高い生徒から抽選で行われるため、最近は多くの人気校が 99パーセンタイルの生徒で埋まる傾向がある。
兄弟姉妹優先枠もあり、高得点を得ても希望校への入学はくじ運という現状は、保護者にとっても悩ましく不透明性が問われるところだ。次回はそれも含めた学校選び、キンダー以降の編入、G＆Tの内容を紹介する（文＝河原その子）
