日本文化継承とコミュニティーを繋ぐ「あおぞら学園」の試み Brooklyn Aozora Gakuen

 ニューヨーク各地で、多様性と国際性を視野に入れた日本語教育活動が増えてきている。海外永住家庭の子弟への、日本文化と言葉の継承を軸とした教育に、日本政府からの支援はまだ手が届いていない状態だが、このような子どもたちが、日本と国際社会の関わりに貢献する人間に育ってゆくかもしれない。今それを担っているのは親たちだ。

手作りの日英バイリンガルプリスクール

 あおぞら学園は、開園4年を迎えるブルックリン唯一の日本語と英語のバイリンガルプリスクール。入園希望者の増加で教室が手狭となり、移転を目指して、大規模なファンドレイジングキャンペーンを展開している。その一環として6月3日ブルックリンでファンドレイジングパーティーが開催された。
 4年前、ブルックリン在住のグラフィックデザイナー西間庭美穂さんは、仕事に復帰するために、日本語環境のデイケアを探したが、地元には無い。志を同じくする他の2人のママ友と 「無ければ、自分たちで作ろう」と思いつき、行動に移す。誰一人スクール運営経験も、幼児教育のバックグラウンドもない。ニューヨーク市のファミリーデイケアの認可を得るべく、皆一から勉強し、場所を借り、改装費用を割り勘で出し合い、先生を雇う。すべてが手探りの状態から、2012年9月にあおぞら学園は開園した。
 「これで私も仕事に戻れると思いました」と美穂さん。ただ、「新人プリスクール」に本当に生徒が集まるのか?人は新しいことに懐疑的な面もあり、こと子どもの教育に対しては慎重になるだろう。しかし、時代も考え方も変わっていた。

パーティーで挨拶をする学園代表の西間庭美穂さん。

パーティーで挨拶をする学園代表の西間庭美穂さん。

ブルックリンの日系コミュニティー

 ニューヨークの街はどんどん新しい人の流れで動いている。かつて日本人居住者の多くなかったブルックリンにも、子育て世代の日本人家庭が増加。その多くは永住者だ。 アメリカで育ってゆく子どもに「日本文化と言葉の継承を」という思いを同じくする親たちが、ブルックリンにあふれていた。
 ママ友パパ友は、異業種交流の場でもある。さまざまな才能や技術をもつ保護者が自分の出来ることを出し合って、学びの場を作る。そんなチャレンジ精神にあふれた日系コミュニティーがブルックリンに形成されていた。あおぞら学園へ入りたいと願う家族のウエイトリストは年々長くなってゆく。
 「今は2クラス各12名しか受け入れませんが、教室を増やすことで、ひとりでも多くの子どもたちを受け入れたい」と、今は学園代表の美穂さん。「本当にすごいのは先生方と保護者の方たちです。この学園のコミュニティーです」と、本人がこの結果に一番驚いている様子。決して自分の経営者としての力量で学園を引っ張ってきたのではないと強調する。

多様性を重視するあおぞらコミュニティー

 「ブルックリンならではの、ダイバーシティーなコミュニティーに根付く日本語と文化の継承」が、あおぞら学園の目指すものだ。日常から日本人の部分だけを切り取った環境を作るのではなく、日本文化や言葉を継承することそのものが、多様性に富むニューヨークで育つ子どもの現実であり普通のことだと捉える。両方の文化と言葉をもつことを、子どもたちが自然なこととして受け入れて育って欲しいと願う。現地校進学で戸惑うことのないよう、英語のクラスをとりいれるのも、その理念の表れだ。
 当初は自分が学園運営に関わるとは思っていなかったが、結局復帰したグラフィックデザイナーの仕事は3ヶ月で辞め、子どもたちと向き合うことに。全てが順調ではなかったが、そんな時に支えてくれたのは、保護者や先生の仲間たちだった。
 あおぞら学園では日本語を理解する外国人家庭や、親自身が2世、3世として日本国外で育ちながらも、日本のルーツを自分の子どもに伝えたいと願う家庭にも門戸を開く。これまで日本人学校には参加しなかったであろう家庭が、門を叩く。この多様性が「あおぞらコミュニティー」だ。
 今回のファンドレイジングパーティー企画チームも実に多彩だ。エリンさんは、本職はコロンビア大学のソーシャルワーカーだが、週1回、学園の英語の先生として働く。「美穂もこの学園もすごい。このコミュニティーの一員として助けたい」と、あおぞらコミュニティーの中心メンバーとして、大事な相談役でもある。

ファンドレイジングパーティー企画メンバー。左からエリン・カプランさん、守野上槙さん、ロビン冨岡さん、中野真里さん、小川彩さん。

ファンドレイジングパーティー企画メンバー。左からエリン・カプランさん、守野上槙さん、ロビン冨岡さん、中野真里さん、小川彩さん。

 槙さんは、ハワイからの日系4世。公園で学園のことを知り、入園を申し込んだ。「日本側の親類との関係を保つことが次第に難しくなる中、子どもたちがアイデンティティーと日本との関わりを築くことができる貴重な場所です。」
 彩さんはアメリカ生活が長く、当初はブルックリンの日本人コミュニティーに詳しくなかったが、長男が3歳の時にあおぞらを知り、それまで通園していたアメリカのプリスクールに加えて、週2日と3日に分けて両方の園に2年間通った。「ちょうど良いタイミングであおぞらを知ることができて、ラッキーでした。」小学生の今も週1で、あおぞらの放課後漢字クラスに通い、次男もあおぞら生だ。演劇の世界で活躍する才能を活かして学園に貢献する。
 その他、美穂さんのリーダーシップのもと、あおぞら学園を必要とする親たちが、「継承語を繋ぐ」大きな輪になる。教室を超え、日本文化の継承教育は今ブルックリンの地域に広がる。「Heritage should be celebrated」と挨拶する美穂さんの言葉が印象的だ。(文=河原その子)

あおぞら学園ウエブサイトHP。

あおぞら学園ウエブサイトHP。


www.aozoragakuen.com