大竹彩子(焼酎&タパス 彩)「プロ」が選ぶこの焼酎、この一本! 毎月第4月曜号掲載 第十回

 第十回 特別編「中村酒造場を訪ねて(前編)」
毎月焼酎好きで有名な各業界の「プロ」をゲストに迎え、焼酎と言ったら「この一本!」を選んでいただくこのコーナー。今月は特別編で、実際に焼酎ソムリエ大竹彩子が先月、ある焼酎蔵に訪れた際の体験談と蔵元さんから聞いたお話を紹介します。

 創業明治21年、今もたった4人の従業員で焼酎造りを行う名蔵「中村酒造場」は鹿児島県霧島市、田園風景の広がる国分にあります。そこにひっそりと佇み、伝統の純手造りのみで芋焼酎を造る同蔵は、代表銘柄「なかむら」「玉露」を始め、約5銘柄を展開。この小さな酒造場から日々産み出され、長年愛され続ける彼らの焼酎の魅力に迫りました。
 まず、中村酒造場の一番の魅力である「手造り焼酎」とは、機械に頼らない昔ながらの石造りの麹室で行う麹作りから和甕を使った仕込み、温度管理まで自然の力とその職人の手に委ねられ、県内に存在する113蔵のうちわずか数蔵のみが今も守っている伝統の造り方です。実際に仕込み中の蔵内を6代目当主中村慎弥氏に案内していただきました。
 最初に現れるのが、焼酎造りの命とも言われる麹造りを行う麹室。雑菌が少しでも入ると麹菌と結合し、焼酎に雑味を与える原因になることから、作業期間中は一般の人は入れないまさに“聖域”です。その間は蔵の職人たちも納豆など菌を持つものは食べない、というほど。その麹室は、長年使用しているとは思えないほど清潔に保たれていました。麹造りの間は麹菌が大量の熱を発することから、最近では機械で温度管理をする蔵が多いのに対し、「手造り」の中村酒造場は天井にある小さな空気孔を開け閉めし、50年以上の経験を持つ杜氏、上堂園考蔵氏の熟練の感覚で温度管理を行っています。
 次に現れるのが、土に埋められた約20個の貴重な和甕。現在はこの和甕を作れる職人がいないため手に入らず、中国甕で代用する蔵が増えています。それもそのはず、中村氏は「元々どの蔵も細かい修繕を繰り返して同じ甕を100年以上使いますが、追加注文が滅多にないから甕職人は廃業せざるを得ない。気付いたときには作れる人がいなかったんです」と冗談を交え語ってくれました。中国甕での仕込みも可能な中、創業当時から受け継いできた和甕のみを使用するこだわりも同蔵ならでは。そこで実際に甕に入っていた仕込み中のもろみをいただくことができ、それを食せることだけでも驚いたのですが、それがまたほのかなベリーのような味で、心地の良い酸味でした。続いて次の工程、タンクで原料のサツマイモと合わせ発酵させる二次もろみと言われる仕込み中のものもいただくと、今度はイモの甘みが加わり、りんごのような味に変化していました。どちらも製造途中であるにも関わらず、既においしく、これが同蔵の銘酒になる土台なのだと納得。「仕込み中の状態でおいしくないものが、おいしい焼酎になるわけがないんです」と語る中村氏の爽やかな笑みの中には、しっかりとした伝統を守る揺るぎない自信があふれていました。(次回、後編へ続く)

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芋焼酎「なかむら」 中村酒造場(鹿児島県)
原料:黄金千貫(芋)、米(麹)
原料の品質にもこだわる同蔵は「なかむら」の麹米として、活火山地帯によって土壌に不足しているカルシウムやマグネシウムを補う特殊な「カルゲン農法」を採用し育てられた鹿児島の米(ヒノヒカリ)を使用している。


大竹彩子
東京都出身。2006年、米国留学のため1年間ミネソタ州に滞在。07年にニューヨークに移り、焼酎バー八ちゃんに勤務。13年10月に自身の店「焼酎&タパス 彩」をオープン。焼酎利酒師の資格をもつ。

焼酎&タパス 彩
247 E 50th St (bet 2nd & 3rd Ave)
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