大竹彩子(焼酎&タパス 彩)「プロ」が選ぶこの焼酎、この一本! 毎月第4月曜号掲載 第十一回

 第十一回 特別編「中村酒造場を訪ねて(後編)」
毎月焼酎好きで有名な各業界の「プロ」をゲストに迎え、焼酎と言ったら「この一本!」を選んでいただくこのコーナー。先月に引き続き特別編として、実際に焼酎ソムリエ大竹彩子が焼酎蔵に訪れた体験談と蔵元さんから聞いたお話をお届けします。

 6代目当主、中村慎弥氏による蔵見学も終盤、最後はいよいよ蒸留機のお出ましです。9日ほど発酵させた二次もろみを蒸留機に入れ、火をかけるとアルコール分が気体となり、外側が水で冷やされている管の中を通ると冷却され、液体に戻り高濃度の焼酎となって徐々に抽出されます。これが原酒と呼ばれる割水前の焼酎です。一番興奮する瞬間ですが、通常、できたての原酒にはガス成分や油性成分が含まれており、濁っていて、味も荒々しく尖っています。これらを取り除くために貯蔵し、丹念に表面に浮いてくる油を除去する作業が待っています。通常ならまだおいしく飲める状態ではないはずのフレッシュな原酒を、中村氏自らコップに注ぎ、利き酒させて下さいました。その味と感動は今でも忘れられません。トゲもなく、濃い芋の香りと甘みまで感じることができ、これで今夜一献やりたいと思うほどでした。
 さらに、中村氏は蔵の下に流れる霧島連山からくる伏流水(地下水)のお話をしてくださいました。焼酎は前述の貯蔵を経て、地元の伏流水を使用し、アルコール濃度を25度まで下げる割水をします。原酒に直接水を注ぐのですから、水の味や質が焼酎の完成に大きく影響します。おいしい水に恵まれている地域では、おいしい焼酎造りができるのです。その「たまたま」自分の蔵の下を流れていた水も、中村氏は自分たちの焼酎造りにどう影響するのか知るため、調べてみたそうです。すると、同じ霧島連山の伏流水の中でもここの水は中硬水でPhが高く、アルカリ性の水だったそうです。そして、アルカリ性の水というのは、素材の本質を引き出す力があり、例えば、沸かさなくてもお茶っ葉を入れると開いて色が付くのだそう。先ほどの原酒にその地下水を注いでもらったところ、納得。味が薄まらず、むしろ芋の芳醇さ、まろやかさが引き立っていました。原料のうまみが凝縮し、輪郭がはっきりし、味が増すような感覚です。そのアルカリ性の水が幸運にも蔵の下を流れていた。しかし、自身の造る焼酎が人々に「おいしい」と言われるだけでは満足せず、なぜおいしいのか、造り方から使用する水の成分までとことん研究し、その理由を突き止めた中村氏にただただ感嘆するばかりでした。
 「先祖代々がおいしい焼酎を造ってこられた理由を知りたかった」。そう語る中村氏は若干30歳にして、蔵を守ろうとする強い意志と希望に満ちあふれていました。

見学を終えて
 今回の体験は私にとって、大変衝撃的なものでした。長年ニューヨークで焼酎を紹介、販売する仕事をしてきましたが、焼酎に関して同じ意見、熱を持っている方に出会うことは稀でした。中村氏が最後に「この透明な液体を、どのような思いで手造りし、瓶詰めや検品、ラベル貼りも人間の手と目でしているか…。透明ということには大きな意味がある。勝負できるのは味だけだから」そうおっしゃったのを聞いて、何とも安堵感に似た感動の涙が出ました。10年ほど前に起きた空前の焼酎ブームでたくさんの蔵が増築や移転をし、事業を拡大した中、中村酒造場は頑なに今も同じ敷地で、同じ設備で手造りの焼酎造りを行っている。それも、創業明治21年以来、先祖代々が引き継いできたその蔵の中にはおいしい焼酎造りに何らかの良い影響を与えてくれている良い菌や微生物が住んでいて、それが今も中村の味を守ってくれている。増築や移転をしたらそれらを全部失うことになる。そう信じて、代々、そしてこれからも中村酒造場は国分の田園風景の中に佇む伝統の蔵で、人を魅了してやまない芋焼酎を作り続けるのでした。
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中村酒造場(鹿児島県)
白麹で作る芋焼酎の伝統蔵
代表銘柄: 「玉露」「なかむら」「甕仙人」

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大竹彩子
東京都出身。2006年、米国留学のため1年間ミネソタ州に滞在。07年にニューヨークに移り、焼酎バー八ちゃんに勤務。13年10月に自身の店「焼酎&タパス 彩」をオープン。焼酎利酒師の資格をもつ。

焼酎&タパス 彩
247 E 50th St (bet 2nd & 3rd Ave)
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