百年都市ニューヨーク 第8回 創業1913年 ショット(中)

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カウンターカルチャーの象徴に

 戦後、経営の操縦桿を2代目社長のメルに託したショット社は、シグネチャーのライダージャケットに生産ラインを戻した。その中で40年代後半に生まれた最初のヒット商品が「パルフェクト」シリーズ型番613。エポーレット(肩章)に、「一つ星」のスタッドをあしらった通称「ワンスター」は大変な人気を博し、店頭から星型スタッドだけがちぎられて盗まれる事件が続発した。
 業を煮やしたショットでは、613から星だけを外してほとんど同じスタイルの型番618を開発。これを1953年公開の映画「The Wild One」(邦題「乱暴者」)の中で主演のマーロン・ブランドが着ることになった。同作品はハリウッド初の不良ライダー映画。ブランドは暴走族のリーダー役なので星がないとさまにならない。そこで衣装係がわざわざ星をつけて「ワンスター」に見せかけた。
 結果的に映画は大当たり。おかげで「ワンスター」をはじめショットの黒革ライダーズジャケットは一躍、反抗的な若者の必須アイテムとなり世界中から注目される。あまりのフィーバーぶりに、米国でも英国でもショットの販売が一時禁止になったというから、今では考えられないほど「うぶ」な時代だったのだろう。
 それにしても戦時中は、栄えある米軍爆撃手の象徴ボマージャケットの代名詞だったショットが、一転してカウンターカルチャーの「ユニフォーム」と化したのは、皮肉な話だ。
 その後、ブランドの後輩格で映画「理由なき反抗」(55年)のスター、ジェームス・ディーンがショットの革ジャンを愛用すると、全米のジミーワナビー不良高校生が熱狂。各地の学校でショット着用禁止令が出た。それからのショットは、一貫して若者文化、特に映画や音楽と共に成長してゆく。ジミーがわずか3本の映画を残して風のようにこの世を去った後も、彼の反抗精神とショットの革ジャンはエルビス・プレスリーや初期ビートルズなどロックンローラーたちに受け継がれていった。

左が613を改良した618。ステアハイド製。右が613「ワンスター」をラムハイド(1歳以下の子羊の革)で作ったレディースモデル218W

左が613を改良した618。ステアハイド製。右が613「ワンスター」をラムハイド(1歳以下の子羊の革)で作ったレディースモデル218W

フリンジ付き革ジャンでも一世風靡

 60年代後半になるとベトナム戦争が泥沼化。反戦機運が盛り上がり、音楽もハードロックが台頭し、大学生を中心とした知的な反抗が始まる。彼らは先住民の衣装にインスパイアされたフリンジ付きのスエードジャケットを好んで着ていたが、そこにメルたちはいち早く着目。最新鋭のフリンジ専用マシンを導入し、皮革加工技術の粋を尽くしたショット版フリンジジャケットを開発して、これがまた一世を風靡するほどよく売れた。当時のロックバンドのレコードを取り出して見るがいい。必ずフリンジ姿のメンバーが写っている。
 若者の感性や流行に敏感なショットは、英国で盛んだった改造バイクの公道レース「カフェレーサー」のスタイルにも目を付ける。プロテクション機能よりは都会感覚のルックスを重視する軽装のジャケットが特徴。1969年の映画「イージーライダー」で、ピーター・フォンダ扮する主人公キャプテン・アメリカが着ていたのがショットの「カフェレーサー」だ。欺瞞と虚栄に満ちあふれた米国社会を半ば小馬鹿にしたような主人公の一見男らしくないライフスタイルを、革ジャンの背中がよく語っていた。
 70年代になると、「パルフェクト」が復活する。今度は、パンクロックだ。ニューヨーク出身のパンクバンド「ラモーンズ」が、ステージでショットのライダージャケットに身を包んで大暴れした。暴力的なサウンドと荒削りなリズムで社会の常識に楔を打ち込むパンクロッカーにとって、ヘビーデューティーなショットの革ジャンはイメージにぴったり。アルバムカバーでもスナップでも、ラモーンズの写真はいつもモノクロで、ショット姿だった。
 「ショットはアメリカのアンダーグラウンドに支えられてきたのです」と意味深に語るのは、4代目社長(COO)のジェイソン・ショット。次回は、彼のインタビューを交えながら同社が100年以上生き延びてきた理由を解明する。 (11月3日号に続く)

マンハッタン区ノリータにあるショットの本店

マンハッタン区ノリータにあるショットの本店

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Schott NYC
正式名称はSchott NYC。1913年ニューヨーク市マンハッタン区で創業。皮革製のジャケットに初めてシッパーを採用し、ライダー用ジャケットを開発。以降、世界中の革ジャンマニアを虜にしてきた。「Perfecto Motorcycle Jacket」と命名されたラーダーズジャケットは1953年の映画「乱暴者」でマーロン・ブランドが着用するなどして一大ブームに。第二次世界大戦中は米軍の、戦後は警察のユニフォームを製造。1世紀を経ても創業家が経営している。
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取材・文/中村英雄 映像ディレクター。ニューヨーク在住26年。人物、歴史、科学、スポーツ、音楽、医療など多彩な分野のドキュメンタリー番組を手掛ける。主な制作番組に「すばらしい世界旅行」(NTV)、「住めば地球」(朝日放送)、「ニューヨーカーズ」(NHK)、「報道ステーション」(テレビ朝日)、「プラス10」(BSジャパン)などがある。