摩天楼クリニック「ただいま診察中」(連載48)子どもの病気【7回シリーズ、その2】子どもの肥満(下)

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加納麻紀
コーネル大学、マウントサイナイ医科大学卒業。マウントサイナイ医療センター提携病院の東京海上記念診療所ハーツデール診療所内科・小児科専門医。米国日本人医師会(JMSA)副会長。日系コミュ二ティー支援委員会委員長。2003年、NPOの育児支援グループ「すくすく会」を創設。

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喫煙や違法薬物摂取をしのいで現在、最も懸念される子どもの健康問題になった肥満。米疾病予防管理センター(CDC)は、若年性肥満は大人になってからの心疾患、2型糖尿病、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)、がん発症の危険性が高まると警告している。前回は、東京海上記念診療所ハーツデール診療所の内科・小児科で治療に当たる加納麻紀医師に肥満の原因や誘発する疾病について聞いたが、今回はその予防や対策について学ぶ。

Q前回のおさらいですが、子どもの肥満の原因はまず運動不足、その次に食事でしたね。
A その通りです。2番目の原因となる食事については、食べ過ぎの例もあります。10歳の女の子(体重40キログラム、139センチメートル、BMI20.4)の例を参考に説明します。前回お話ししたように子どもの場合は、身長・体重・年齢といった全ての要素を入れたBMIパーセンテージで肥満かそうでないかを判定します。子どもの場合、BMIパーセンテージが85%以上で「太り気味」、95%以上で「肥満」に分類されます。彼女は85.7%で「太り気味」でした。サッカーや水泳などスポーツ好きで非常に活発なのですが、お母さんに聞いたところ、お腹が空くというので、「(本人に)食べたいだけ食べさせている」とのことでした。おにぎりなど炭水化物が多いものを主に食べていたようです。

Q 腹持ちがいいからといって、おにぎりやピザなどの炭水化物やフライドチキンなどの揚げ物を必要以上に食べるのはよくないですね。たとえエネルギー消費が盛んな子どもであっても。
A もちろんです。過食を繰り返すと胃袋は伸びて広がり、もっともっと食べたくなります。悪循環ですね。

Q 最近の子どもの放課後は塾や宿題で忙殺されています。日本人の子どもたちはそれに加えて補習校があります。空いた時間があってもスマホゲームばかりして外で遊ばないと聞きます。
A 忙しさのあまり就寝は深夜12時過ぎという子どもも多いようです。寝不足も肥満の原因になります。特に駐在員家庭の子どもは帰国受験の準備などストレスも多いようです。ストレスが過食の引き金になるのはよく知られていますね。
体型は誰にとっても非常に敏感な問題です。クリニックにいらしたお母さんが太り気味の子どもに向かって「だから食べちゃいけないって言ったでしょう」と叱責することがありますが、食べ物を買ってくるのもメニューを考えるのも親御さんです。ここ数年、米国では2歳から5歳の肥満率が上がっていますが、この年齢の子どもの食事内容や量をコントロールしているのは親御さんです。言い換えれば子どもの肥満は親の責任なのです。泣き止ませるために、または言うことを聞かせるためにおやつを与える。おやつがパスファイ(おしゃぶり)やトリート(ご褒美)になってしまっていないか、見直してみてください。

Q 肥満の改善は、「体重管理、運動、食事療法」とのことですが、具体的な指針を教えてください。
A体重管理は、CDCのウェブサイト(https://nccd.cdc.gov/dnpabmi/Calculator.aspx)でBMIパーセンテージを割り出し、なるべく標準体重に近づけるようにしましょう。米心臓協会は、子ども(2歳から19歳)に対して1日当たり1時間、中強度(Moderate Intensity)の運動をする習慣を付けるよう推奨しています。継続して1時間できない場合は、強度(Vigorous Intensity)の運動を30分ずつ2回、15分ずつ4回に分割して行っても構いません。運動をすると「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの分泌が盛んになり、小腸での消化を助けたり、精神を安定させたりします。善玉コレステロールも増えます。
私の経験上、太り気味の子どもの親御さんもぽっちゃりしている傾向が高く、運動不足のようです。この機会に家族で一緒に楽しめる運動を生活に取り入れてみてはいかがでしょう。夏の間は公営プールも遅くまでオープンしています。日照時間も長くなりますから、ジョギングやウォーキングもいいでしょう。

Q食事の際の注意点は?
A ファット(脂肪)の摂取量は、2歳から3歳児は1日に摂取する総カロリーの30%から35%に、4歳から18歳の子どもは25%から35%に抑えましょう。良質な脂肪分(ポリサチュレーテッドファット=多価不飽和脂肪酸、モノアンサチュレーテッドファット=単価不飽和脂肪酸)は青魚、ローストしていないナッツ、オリーブオイルなどに多く含まれています。学校へはなるべくお弁当持参で。飲み物は水か麦茶を。牛乳ならスキムか低脂肪のものを。ヨーグルトやグラノーラバーは糖分が多いので控えめにしましょう。加工品はおしなべて糖分や塩分が多いので要注意です。糖分や塩分はホルモンに働きかけて食欲を増進させます。ポテトチップスを食べ始めると止まらなくなるのは、そのためです。

Q おやつを与えるとしたら、おすすめは?
A思いつくところで、ブドウ、フムス(ひよこ豆のペースト)、低脂肪チーズ、ガカモレ、またポップコーンやチップスなら減塩のものでしょうか。何よりも大切なことは、野菜や果物など加工されていない「ホールフーズ」を意識的に食べさせることです。

Q 生活面での注意点は?
A夕食はどんなに遅くとも午後7時前に。夕食が遅くなればなるほど就寝時間も遅くなり、体内時計も狂ってしまいます。カロリーの高い間食をした場合は、無理をして夕食を取る必要はありません。

(了)

出典:CDC

出典:CDC