GAIJIN

「旨いすしを食べるならマンハッタン」。そんな既成概念を覆す店が増えている。有数のグルメスポットに成長したクイーンズ区アストリアに店を構える「ガイジン」もその1つ。シェフ以下スタッフは全員非日本人、意表を突く店名など、こと和食に関してはコンサバな編集子、当初は半信半疑だったが、食べてみて驚いた。

大胆な発想が生み出す ニューウェーブすし

 イリノイ州出身のシェフ、マーク・ガリシアさんは19歳からこの道一筋。地元で名の通った日本人すし職人に弟子入りし、14年にわたりシカゴの名店で修行を重ねてきた。2016年秋、すしの激戦地ニューヨークで勝負したいと同店をオープン。今では評判を聞きつけてマンハッタンはおろか、川を2本越えてニュージャージー州からやって来る客も多いという。
 シグネチャーメニューは、シェフの「おまかせ(9貫100ドル、12貫130ドル、15貫160ドル。いずれも季節の前菜2品付き)」。ネタは主に築地からの直送。その他季節に応じて、マークさんが最適と判断した漁場のものが並ぶ。
 カウンターに着くと客の利き手側におしぼりが置かれ、手でつまんで食べるようウエイターから勧められる。つけ場から漂ってきたのは、ほんのり甘酸っぱいすし飯の匂い。これは本格的!と期待に胸を躍らせていると、まず出てきたのがキンメダイ。脂がのった白身に合わせているのはフジリンゴの果汁とポン酢を含ませた大根おろし。お次は極薄にスライスしたショウガとニンニクが仕込まれたシマアジ(写真はアジ)。燻し風味のハマチにはバナナペッパーをあしらいパンチを効かせ、マグロの赤身は軽く炙って、バター炒めにしたシイタケがトッピングされている。口の中でカリッと弾けたのは炒ったアーモンド。赤身のねっとりした味とアーモンドの軽やかな食感の妙を楽しんだ後は炙り大トロ。バターのような濃厚味を中和するのはシソ、ミョウガ、昆布に柚子じょうゆ、ときた。マグロの中落ちに独特の風味と歯ざわりが楽しいたくあんを練り合わせ、ウニをのせた色鮮やかなにぎりは、辛口の冷酒に合わせたい一品だ。
 次から次へとまるで交響楽のような「おまかせ」の核となるのは、先刻ふくよかな香りにノックアウトされたシャリ。パスタで例えるならアルデンテ。弾力を残し、1粒1粒が「立って」いるのに口の中でほろりと崩れるあたりは、見事と言う他ない。マークさんによると、水加減火加減、赤酢とホワイトビネガーの配合が鍵だそうだ。
 ここにきて「すしなら江戸前、ネタにトッピングするなどもっての外」との、日本人的偏見は吹き飛ぶ。発想は大胆だが、奇をてらった感じは全くなく仕事も丁寧。ネタが持つ魅力を最大限引き出す着地点もぶれていない。
 終盤のわさびを効かせたトリ貝と北海道産ウニの軍艦はネタの持ち味だけを生かした直球勝負。最後の大盤振る舞い、大トロの手巻きを食べてびっくり。この食感は? このかすかな酸味は? 答えは、ラッキョウ!
 怒涛のニューウェーブすし攻撃の最後は、上質のスイーツを彷彿させる卵焼き。さりげなく江戸前で締めるとは、「にくいねえ」。

なんとも色っぽい炙り大トロ

なんとも色っぽい炙り大トロ

ニンニクとショウガが爽やかなアジ

ニンニクとショウガが爽やかなアジ

色も鮮やかなウニが鎮座したマグロの中落ち

色も鮮やかなウニが鎮座したマグロの中落ち

モダンな店内。夏季にはガーデンもオープンする

モダンな店内。夏季にはガーデンもオープンする


GAIJIN
www.gaijinny.com
37-12 31st Ave., Astoria
Tel : 929-328-2890