アメリカの児童相談所(1)「児童虐待」と通報されたらどうなる?

 
 痛ましい幼児虐待事件が日本でも連日のように報道されている。児童相談所の対応の甘さを批判する記事も多い。その際によく引き合いに出されるのが米国における児童保護法だ。
 米国では保護者が子どもを虐待している、または虐待している可能性があると第三者が学校や当局などに連絡すると、即刻、児童相談所に当たる政府機関が介入する。しかし実際にどのようなプロセスで児童相談所が介入するのか、 調査員がある日突然、自宅に来訪するまで正確に把握する家庭は少ない。米国の虐待児童保護のシステムを数回に分けて紹介する。

CPS

 日本の児童相談所に当たる政府機関は、米国ではCPS(Child Protect Service)と呼ばれる。各州、自治体によって呼び名が変わる場合もある。
 ニューヨーク州ではCPS、ニューヨーク市ではACS(Administration of Children’s Service)、ニュージャージー州とコネティカット州ではDCF (Department of Child and Families)となり、ニュージャージー州ではDCFの管轄の下、DCPP(Department of Child Protection and Permanency)が、各自治体で児童虐待の通報を受けると調査と保護に当たる。
 各機関は日本の児童相談所と同様、虐待のみならず、児童の福祉向上に関する全般的なサポートを行う。

通報後の流れ

①通報は各州のSCR(State Central Registry)と呼ばれる登録機関に報告され、SCRが調査対象になるかどうかを判断する。
②行政は24時間以内(コネティカット州は緊急2時間、その他の州は72時間以内)に通報された家庭に調査員を派遣する。
③調査は60日(州により45日から90日)以内に全て終了させなければならない。
④調査を基に、児童虐待の証拠が認められた場合は「Indicated」、認められなかった場合は「Unfounded」の決定を下す(ニュージャージー州ではSubstantiated/Unsubstantiated、コネティカット州はSubstantiated/Established/Not Established/Unfoundの4カテゴリーに分けられる)。
⑤「虐待あり」と認められた場合は、家庭裁判所が「危険度」に応じた介入を決定する。
 このように、通報があってからほぼ3カ月で虐待の有無が調査され、家庭裁判所に委ねられるシステムになっている(図1ニューヨーク市の資料参照)。

通報と調査

 CPSの調査がいったん開始されると(ケースオープン)、たとえ通報内容が誤解でも、問題とされる家庭の戸口まで来た調査員は、「誤解でしたね」と調査を中止することはできない。「Unfound」報告書を書くためにも基本的な調査のプロセスは踏まねばならないのだ。通報で調査対象にならないのは、①被害者が18歳以上②加害者が法的保護者以外③州の定める虐待に合致しない(例:健康上問題のない15歳が1人で留守番をしているなど)の場合だ。

「証拠なし」は「虐待なし」ではない

 「Unfound」や「Unsubstantiated」と判断された場合は、そこで全てが終了(ケースクローズド)となる。 調査は刑事告訴ではないので結果に対して無罪という概念はそもそもないが、あくまでも「虐待なし」ではなく、「今回の通報による調査では『虐待』となる確たる証拠が見つからない」という意味だ。そのため「Unfound」でも、ストレスを抱えている保護者には本当の虐待につながらないよう、任意で育児教室や、グループカウンセリングへの参加を促すこともある。また調査内容と結果はSCRのデータベースに一定期間記録が残る。

データベースに残る名前

「虐待あり(Indicatedなど)」では、「危険度」の大小に関わらず最年少の被害者が28歳になるまでSCRに調査内容の記録が残り、その間、必要と承認された機関や調査員に開示される。そのため親権獲得や、職種によっては就職に影響が出る。
「虐待の証拠なし(Unfoundなど)」では、調査記録は封印されてデータベースに残り、重大な要件で裁判所命令などが出されない限り開示されることはない。また再度虐待の疑いで通報されても、その事案の調査員に開示されることもない。封印された記録は調査から10年後に破棄されるが、「重大な要件」が具体的に何を指すのかは不明。身に覚えなく疑われた保護者にすれば、封印とはいえ記録が政府側に残るのは気持ちの良いものではない。
 米国の児童保護は、児童の福祉を最優先するのが大原則だ。保護者の気持ちは 忖度しない。「保護者に気を使った時点で子どもの命が奪われる」と言わんばかりのような強硬な姿勢も辞さない。次回は、どのように調査が行われるかを説明する。
(取材・文=河原その子)

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