10月特集 NYCが舞台の推理・怪奇小説

ミステリアス・ブック・ショップ店長、トムさんおすすめ
NYCが舞台の推理・怪奇小説

秋も深まり、じっくり腰を落ち着けて本を読みたい気分。ハロウィーンも近いこの時期なら推理小説がぴったり。マンハッタン区はトライベッカにある推理・怪奇小説専門の書店、ミステリアス・ブック・ショップの店長、トーマス(トム)・ウィッカーシャムさんに、ニューヨークが舞台のおすすめ作品を聞いた。

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The Alienist
ケレイブ・カー(1994年)
同名の邦訳版はハヤカワ文庫から
テレビ化もされたベストセラー犯罪小説。舞台は19世紀末のニューヨーク。アエリアニスト(精神科医)のラズロー・クライスラー博士とニューヨークタイムズのジョン・ムーア記者を中心にした5人の特捜班が、筆跡鑑定や心理学など当時斬新だった捜査手法を駆使して連続猟奇殺人犯を追う。市警察本部長でのちに27代大統領となったセオドア・ルーズベルトや銀行家のJ・P・モーガンも登場する。
トムさんのコメント
世紀末のローワーイーストサイドの陰鬱な雰囲気がよく出ている。歴史的描写も詳しいよ。

American Psycho
ブレット・イーストン・エリス(1991年)
同名の邦訳版は角川文庫から
クリスチャン・ベール主演で2000年に映画化。13年にはミュージカルにもなった。好景気に湧く1980年代末の金融街、投資銀行で働くパトリック・ベートマンは20代半ばにして富と社会的地位を約束されたエリート。ハンサムでスタイリッシュ、非の打ちどころのないベートマンだが、実生活は虚栄と倦怠、狂気に満ちていた。同僚とは、どのレストランに顔がきくか、高級ブランドにどれだけ通じているかなど無意味な会話に明け暮れ、セックスの後は快楽殺人に耽るのだ。
トムさんのコメント
金さえあれば、最高級レストランを予約することも殺人で無罪判決を勝ち取ることもできる—「強欲こそ善」とされた、当時の金融街を強烈に風刺した作品。

Rosemary’s Baby
アイラ・レヴィン(1967年)
邦訳版「ローズマリーの赤ちゃん」はハヤカワ文庫から
ミア・ファロー、ジョン・カサベテス主演で製作された1968年公開の同名映画の原作。同小説は400万部を販売。60年代で最も売れた怪奇小説といわれ、「エクソシスト」「オーメン」など70年代の悪魔映画ブームの先駆けとなった。マンハッタンのネオゴシック様式のアパート、ブラムフォード(映画ではアッパーウエストサイドのダコタハウスを使用)に引っ越してきた新妻ローズマリーに降りかかる超常現象の数々。ローズマリーは妊娠し出産するが、父親は夫ではなかった。
トムさんのコメント
隣の部屋に住む人が悪魔だったら? 想像しただけでもゾッとするよね。

A Ticket To The Boneyard
ローレンス・ブロック(1990年)
邦訳版「墓場への切符」は二見文庫から
ニューヨーク州バファロー市出身でニューヨーカーのブロックはこの街を舞台にした探偵小説を多く書いている。本作は、元アル中の無免許私立探偵、マシュー・スカダーが活躍するシリーズの第8作目。スカダーは12年前、娼婦エレインと協力して凶悪犯ジェームズを牢獄につなぐため陪審員に偽りの証言をした。出所したジェームズの目的はスカダーに関係する女たちを皆殺しにすること。最後の標的はもちろんスカダーだ。
トムさんのコメント
復讐鬼と化したジェームズにじわじわ追い詰められていくスカダー。シリーズの中で最も怖いのが本作。

トーマス・ウィッカーシャムさん
ミステリアス・ブック・ショップ店長。お気に入りのミステリー小説は、ジェイムズ・クラムリー作「The Last Good Kiss(邦題:さらば甘き口づけ)」
ニューヨークを舞台にしたミステリーはたくさんあって、今回紹介したのはそのほんの一部だよ。なぜ、この街が舞台に選ばれるかって? 米国の他の地域に比べて歴史が長いからだと思う。作家の想像力を刺激する事件も、昔からたくさん起きているしね。

 

The Mysterious Bookshop
58 Warren St. (bet. Church St. & Broadway)
www.mysteriousbookshop.com
1979年創業。市内に現存する唯一の推理・怪奇小説専門書店。著名編集者のオットー・ペンズラーさんが経営、ミステリー愛好家のたまり場として知られる。おすすめ本の紹介や新刊の書評を掲載したニュースレターを月に1回発行。作家の講演会なども多数開催。トムさんによると、ミステリーを中心に海外文学を主に手がける早川書房の社長も常連だとか。