ニューヨークにっぽん人もよう 第2回 大都 直美 さん(31)

地下鉄マナーのパンフレットを制作 自分を映し出すグラフィックデザイナー

ボーイフレンドとパンフレットを配った大都さん(左)(photo: amNewYork / Vin Barone)

2月上旬、マンハッタン区ローワーマンハッタンの地下鉄駅ホームで、ボーイフレンドと一緒に手作りのパンフレットを配った。「NYC Train Tips & Tidbits」と名付けた、地下鉄に乗る際の「コツ」や「ちょっとしたエチケット」をイラスト付きで記したパンフレットだ。
 以前から地下鉄のマナーに関するパンフレットを作りたいと思っていた映画製作者のボーイフレンドに誘われ、イラストを担当することに。ボーイフレンドが当初考えていたのは「Do’s and Dont’s」(やって良いことと悪いこと)という「厳しい」コンセプトだったが、乗客に寄り添い、乗り方を楽しく導くような内容を提案した。
  「高齢者や妊婦には席を譲りましょう」「乗車の際は降りる人を待ってから」などのマナーを、愛嬌のあるハトやネズミなどのイラストとともに、ユーモラスに分かりやすく紹介。他にも、「地下鉄列車の清掃は8〜10週間に1度。手を洗うのを忘れずに」「一番汚いのは隅の席」などの豆知識も散りばめられている。パンフレットを通して伝えたいのは「ニューヨークを楽しんで !」ということ。もちろん、自分たちも忘れず登場させた。

中央下、バックパックを背負った乗客に押しつぶされているのが大都さん
パンフレットは www.naomiotsu.com/nyttt からダウンロードできる

 ブルックリン区を拠点に、フリーランスのグラフィックデザイナーとして活動。日本人の父親と、米国育ちの韓国人の母親の間にニューヨークで生まれ、8歳で父親の仕事の関係で東京に転居した。高校卒業までの約10年を葛飾区で過ごした「下町っ子」だ。
 母親がアーティストだったこともあり、幼いころから絵を描くことや工作に夢中になった。母親の作品を見て抱いたのは競争心。幼いころに見たテレビ「スクールハウス・ロック」(1973〜96年)のイラストに強く惹かれたのも覚えている。
 漠然と抱いていた、絵に対する思いを確信したのはパーソンズ美術大学に入ってからだ。グラフィックデザインとはどのようなものかを知り、それまで自分が絵を通してしようとしていたことに、合点がいった気がした。「これからの人生、これを続けてやりたい」。強い思いが降りてきた瞬間だった。
 大学卒業後、ファッションブランド「オープニングセレモニー」のグラフィックデザイナーとしてキャリアをスタート。2014年にフリーランスになった。全ての作品をアイパッドを使って手描きで制作している。妹と一緒に、イラスト付きのレストランブログ「we8that」(ウィー・エイト・ザット)も運営している。
 制作の際に気を付けているのは、「人としての自分を映し出すような作品にすること」。日本に住んでいたとき、韓国人との「ハーフ」として、日本社会に受け入れらことのは難しさを感じていた。ニューヨークに戻って13年経った今、自身は「ほぼアメリカ人」。しかし日本で暮らした10年間は、作品に確かな影響を与えている。「日本は自己認識が強く、繊細な文化。アーティストとして、私にしかない魅力に繋がっている」