あれこれNY教育事情 米国のホームスクール事情(1)

 米国では現在、「ホームスクール」を実践する家庭が増えている。ホームスクールという言葉は近年、日本でも聞くようになったが、その印象や実態は日米で大きく異なる。今月から米国のホームスクール事情について紹介する。

ホームスクールとは何か

 ホームスクールとは、文字通り子どもを学校に通学させず、家庭を拠点に保護者がわが子を教育することだ。プリスクールから義務教育修了となる高校卒業の12年生までの正規の教育内容を満たすことが条件。義務教育の12年間全てをホームスクールで行っても良いし、途中の1年間など短期で行っても良い。通学とホームスクールの切り替えは、正規の登録手続きを踏めば自由に行える。
 自分の子どもを自宅で教えることがホームスクールの定義なので、他の家族の子どもを引き受けて少人数で教師役の保護者が自宅で学習させる場合は、たとえ2、3人の少人数グループでも私設教育機関と見なされ、ホームスクールにはならない。

ホームスクールは合法か

 ホームスクールは1993年までに全ての州で合法化。ホームスクールで修了した学年は正規の学校授業を受けた生徒と同様に扱われ、大学にも進学できる。米国では全大学でホームスクールの生徒を受け入れている。

法律は州ごとに異なる

 ホームスクールについて定める法律は州によって大きく違う。行政に登録しなくてもホームスクールを始めることができる「緩い」州(緑色)もあれば、ニューヨーク州をはじめとする東海岸の州(赤色)のように、登録から、その後に満たすべき要件が厳しく定められている州もある(下の地図を参照)。ホームスクールを開始するに当たり要求される資格はなく、望めばどんな保護者でも始めることができる。ホームスクールを始めるための方法や手続きは、左の表の各自治体の教育局のウエブサイトに紹介されている。

クラスに1人はホームスクールで学んでいる

 米国教育省の全米教育統計センター(NCES:National Center for Education Statics ) の2016年の統計によると、現在、全米の義務教育年齢の生徒の3%、およそ30人に1人がホームスクールで教育を受けており、その数は増加傾向にある。クラスに1人はホームスクールで学ぶ生徒がいると考えると、日本と比較して「通学しないこと」による敎育の選択が、特異な目で見られる選択ではないことが分かる。

緑、黄色、オレンジ、赤の順にホームスクール条例の定めが厳しくなる。ホームスクール・リーガル・ディフェンンス・アソシエーション(hslda.org/content/laws)のウェブサイトのスクリーンショット

ホームスクールを選択する理由

 宗教上の理由や人里離れた土地に住み、自宅付近に学校がないなどの地域的理由の他、保護者が従来の学校敎育に反対するリベラル層である、公敎育に失望している、芸術やスポーツなど特殊な才能をもつ子どもや発達障害や精神面で特性を持つ子どもに合った敎育をしたい、近隣の学校が荒廃している、いじめなどで学校へ行けなくなったなど、ホームスクールを選択する理由はさまざまだ。 

ホームスクールの支援

 左の表から分かるように、法律、敎育、芸術など、公的機関から民間団体まで、ホームスクールを実践する家庭に対する支援は多岐にわたる(これについては次回紹介する)。
 米国のホームスクールは、学校へ行けない子どもに「落ちこぼれ」のレッテルを貼ったり育児放棄の親が選択したりするものではない。むしろ、敎育熱心で高学歴な保護者ほどホームスクールを選ぶ傾向にある。
(河原その子/舞台演出家、ライター、学校コンサルタント)

米国のホームスクールについてのお役立ちサイト