連載304 山田順の「週刊:未来地図」安倍政権はなにをしてきたのだろうか?(第二部・下) 史上最長政権の7年間を振り返る

なぜ、長期政権になったのか?その理由

 このように見れば、安倍政権とはスローガンだけで、ほとんどなにもしなかった政権と言うことができるだろう。やってきてはいるにはいるが、それは官僚がいればできる現実的な対応策にすぎず、大きなことはなにもやってこなかったのだ。
 とすれば、なぜ、ここまで長期政権になってしまったのか?その理由を検証する必要がある。

 大メディアは「野党が弱すぎた」「国政選挙6連勝で、選挙に強かった」「党内に有力な対抗馬がいない」などと解説してきたが、それは表面的なことにすぎない。

 私が絞って指摘したい理由は、次の3点である

(1)官邸が官僚の人事権を握った
 すでに自民党は党内派閥による連合政党ではなくなり、派閥は残っているが、総裁と幹事長が人事とカネを一手に握る組織になっている。そのうえに、安倍内閣では、官邸が官僚の人事権を握ることになった。2014年5月の内閣人事局の発足である。
 これにより、官僚は内閣に逆らうことができなくなった。逆らえば、昇進はなくなり、左遷が待っているからだ。こうして、“忖度”の風潮が強まり、誰もが首相の言いなりになってしまった。

(2)政権の広報係と化したメディア
 本来なら、政権を監視し、国民のために報道をすること(つまり「公共善」(コモングッド)の追求が、メディアの使命なのに、この7年間、メディアは政権と馴れ合いになって、その使命を放棄してきた。
 大手メディアの幹部が、毎月、首相と食事会(饗宴)をするようでは、「堕落した」と批判されても返す言葉はないだろう。その結果、メディアは政権の広報係と化してしまい、「1億総活躍社会」「女性が輝く社会」などのスローガンから、政権がなにかをしているように報道してきた。いわゆる“やっている感”を、国民に与え続けてきた。
 そもそも安倍首相は、ほかの総理大臣に比べてぶら下がり会見を含め、記者会見の回数が少ない。また、記者会見をやったとしても、記者クラブメディア優先の指名制、質問の事前提出制となっている。これらは、すべては仕組まれているので、茶番である。

(3)“パクリ”の名人
 教養、知識がない安倍首相は、一種の“パクリ”の名人で、ブレーンにいいアドバイザーを集め、その力を借りることで“やっている感”をかもし出してきた。
 その筆頭は、「影の総理」と呼ばれた今井尚哉・総理首席秘書官&補佐官である。これまでの数々の政策、北朝鮮、中国政策、対アメリカ外交まで、今井尚哉が仕切ってきたとされている。
 アベノミクスだけは、本田悦朗・内閣官房参与(当時)の入れ知恵だったが、「新・3本の矢」は、今井秘書官がつくったという。

「影の総理」が仕切ってきた7年間

 長期政権になった理由(3)で指摘した、今井尚哉・総理首席秘書官のことを最後に述べて、この記事を締めくくりたい。
 今井秘書官は、経産省出身の官僚。伯父(父の兄)は高度成長期に通産事務次官を務めた今井善衛氏、そしてもう1人の叔父(父の弟)は元経団連会長の今井敬氏という名門一族の出身。1982年の入省以来「将来の次官候補」としてエリートコースを歩いてきた。頭の良さでは、首相とは格が違う。
 そのため、安倍首相は「今井ちゃんは本当に頭がいいよね。なにを聞いてもすぐ答えが出るんだよ」と言って、政権発足時から、政務を担当する首席秘書官に起用してきた。さらに、「政策企画の総括」を担当するという補佐官にも任命した。首相秘書官と首相補佐官を兼任するなどというのは、異例中の異例だから、「影の総理」と呼ばれるのも、当然である。
 今井秘書官はこれまで、安倍首相に対し、内政から外交、人事までアドバイスしてきた。また、たびたびバラマキ外交にまで同乗し、首相の使命を持って外国訪問をすることもあったため、外務省からは徹底的に嫌われてきた。
 2017年に自民党の二階俊博幹事長が訪中した際には、習近平国家主席に手渡した親書を、事前に中身を書き換えたといわれている。しかも、「対中外交は外務省ではなく、オレがやってるんだ」と吹聴したという。となると、来春の習近平“国賓”招待来日も、彼の発案かもしれない。
 安倍首相にべったりだから、外務省ばかりか、どの省庁からも嫌われている。首相を通して人事に影響力があるからだ。つまり、そんな人物が、「1億総活躍社会」「地方創生」「女性が輝く社会」「働き方改革」などのスローガンをつくり、首相に入れ知恵をしてきたのだから、官僚機構がうまく動くわけがない。
 これが、安倍長期政権の大手メデイアが触れない内幕である。
 はたして、安倍政権は、今後も続くのか? そうして、安倍首相は自民党総裁としての任期いっぱいの2021年9月末日まで、首相を続けるのか? 未来は、いつもわからない。ただ、安倍政権が続く限り、日本は衰退していくだけだろう。日本でこのような強権的な政権ができ、しかもその政策はバラマキによる社会主義政策で、どんどん「大きな政府」化していく。まさか、こんなことになるとは、7年前は夢にも思わなかった。(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com