連載348 山田順の「週刊:未来地図」検証「コロナウイルスは人工的につくられた」 (第一部・下)

「ワシントン・ポスト」紙が口火を切った
 マスメディアでウイルス人工説を最初に取り上げたのは、「ワシントン・ポスト」(WP)紙だった。WP紙が4月14日に、コラムニストのジョシュ・ロギンの記事で、アメリカ政府が武漢ウイルス研究所の安全基準について懸念していたことを明らかとする文書の存在を報道すると、「フォーブス」誌、「FOXニュース」などが、こぞって追随した。
 WP紙の記事は、ざっと次のような内容だった。
《2018年1月から3月にかけて、北京にあるアメリカ大使館は、武漢ウイルス研究所に、アメリカの科学外交官を繰り返し送るという異例の措置をとった。その後、外交官は同研究所が行っていたコウモリのコロナウイルス研究の危険性に警鐘を鳴らす公電を国務省に送っていた。
 新型コロナウイルスが同研究所から漏洩したという証拠はないが、いま、トランプ政権内では、当時の公電が再び注目を集めている》
 もちろん、この記事もワシントンのリークである。つまり、アメリカ政府は、意図的に新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所でつくられたとする説を流すことにしたと考えられる。

発生源はやはり武漢ウイルス研究所なのか?
 4月18日、今度は「AFP」通信が、武漢ウイルス研究所に関する疑惑を整理して報道した。以下、その記事の内容をざっとまとめとめてみたい。
《どのような施設なのか?—–武漢ウイルス研究所は、公式ウェブサイトによるとアジア最大のウイルス保管施設で、ウイルス1500株以上を保管している。同研究所では2015年、病原体レベル4(P4)を扱える最高水準の安全性を確保した実験室が完成し、2018年に稼働を開始。P4は人から人への感染の危険性が高いウイルスを指し、エボラウイルスなどが含まれる。P4実験室の建設に当たっては、仏バイオ企業の創業者アラン・メリュー氏が顧問を務めた》
《ウイルスはここで発生したのか?—–「WP」紙と「FOXニュース」がその可能性を報道した。「WP」紙が入手した外交公電からは、当局者らがとくにSARSに類似したコウモリコロナウイルスの取り扱いをめぐる安全対策の不備に懸念を示していたことが明らかになった。
 「FOXニュース」は、同施設で研究対象となっていたコウモリ由来のウイルス株に感染した人物が「0号患者」となり、そこからウイルスが武漢の住民に広まった可能性があると伝えた。》
《中国の科学者らは、ウイルスは武漢の海鮮市場で動物からヒトへと感染した可能性が高いとしているが、ネット上では武漢ウイルス研究所が発生源だという陰謀説が拡散。アメリカ政府も調査に乗り出した。同研究所と中国外務省はこの説を否定している》

「動物由来」「人工」のどちらにも確証はない
《ウイルスについてわかっていることは?—–科学者らは、ウイルスの起源はコウモリだと考えており、そこからセンザンコウを媒介して人へと感染した可能性があるとみている。しかし、今年1月、英医学誌「Lancet」(ランセット)に発表された中国科学者チームの論文では、最初の感染者と、初期に感染が確認された41人のうちの13人が、ウイルス発生源とされる武漢の野生動物市場とはつながりがなかったことが明らかにされた》
《中国を代表するコウモリコロナウイルス研究者の一人で、武漢ウイルス研究所P4実験室の副所長でもある石正麗氏は、ウイルスがコウモリ由来であることを初めて示した論文を出した研究チームの一員である。彼は科学雑誌「Scientific American」(サイエンティフィック・アメリカン)のインタビューに応じ、新型コロナウイルスのゲノムシークエンス(配列)は自身の研究所がこれまでに収集・研究したコウモリコロナウイルスのいずれとも一致しなかったと述べた。
 英ロンドン大学キングスカレッジのバイオセキュリティー研究者、フィリッパ・レンツォス氏はAFPに対し、新型ウイルスが武漢の研究所から流出したとする説にはいまのところ証拠がないとする一方、野生動物市場が発生源だとする説にも「確固たる証拠はない」と指摘した》(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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