連載375 山田順の「週刊:未来地図」ロックダウンは効果がなかったのか? なぜ世界は 「コロナ放置政策」に転換し、株価は高騰したのか?(完)

認知的不協和の典型例はトランプ大統領

 認知的不協和の例としてよく言われるのが、喫煙者がタバコを吸うのを正当化する論理だ。一般的な認知(事実)としては「タバコを吸うと肺がんになりやすい」があるが、喫煙者はこれを受け入れられない。そこで、「タバコを吸っても肺がんにならず、長生きをする人がいる。つまり、タバコと肺がんには直接的な因果関係はない」と、認知のほうを変えてしまうのである。
 これを株価にしてみると、「コロナによる大不況だから、株は買えない。株価はまだ下がる」というのが、本来の認知である。
 しかし、手元に金融緩和による資金があると、この認知を変えてしまう。すなわち、「大不況でも株価だけは関係ない。今後も政府は金融緩和を続ける。世界中がそうする。となれば、株価は下がるわけがない。いくらでも上がる」となってしまうのだ。投資家は、FRBや日銀などの中央銀行が、必ず救ってくれると信じ込むのだ。
 認知的不協和の典型例が、トランプである。トランプはコロナを「単なる風邪」として、一般認識を変更してしまい、さらに「ワクチンはすぐにできる」とまで言った。そして、すべてをWHOと中国のせいにしてしまったのだ。
 彼が認識している世界は、すべて自分が都合のいい世界である。

未来の鍵を握る第2波に襲われたイラン

 はたして、欧米のロックダウンは本当に効果がなかったのだろうか? なかったとしたら、いまさらロックダウンには意味がないし、今後は、コロナ放置政策でいくしかない。
 ただ、本当のところはまだわからない。もう少し時間がたてば、データがそろうだろう。
 また、認知的不協和で考えると、世界は集団ヒステリーから覚めて、今度は認知的不協和に陥り、コロナは大したことはないと認識を変えてしまったとも言える。
 実際、世界全体では、感染者数も死者数も増え続けている。そんな段階なのに、今後、どんどん規制を解除しようとしているのだから、そう思うほかない。
 はたして、コロナ放置政策に転換して、それを続けていっていいのだろうか? 揺り戻し、つまり大規模な第2の波は来ないのだろうか? ニューヨークでは、6月9日から、経済活動が本格的に再開された
 私は臆病者である。だから、まだどこにも出かけていない。手術後2カ月ということもあるが、コロナ禍はまだ続き、収束はありえないと思っている。現在のロックダウン解除、経済再開の方向を大いに疑っている。
 イランでは、すでに大規模な第2波が来ている。イランは、イタリアとともに2月下旬から感染者数が急激に増え、一時は感染者数でイタリアに続いた。そのため、ロックダウンが実施され、3月末をピークに1日当たりの新たな感染者数は減少した。
 そこで、4月中旬からロックダウンを解除し、経済活動を段階的に再開したが、5月に入ると再び感染者数が増え出した。そして、6月4日、1日当たりの新規感染者が3574人とこれまでの最多を記録してしまった。しかし、いまさら、ロックダウンには戻れない。
 よって、イランがどうなるか見ないことには、先のことはなにもわからない。もし、アメリカ、それもニューヨークでイランと同じことが起これば、NYダウは再び大暴落するだろう。日本もまた同じだ。
(了)

新刊「コロナショック」のお知らせ

 6月8日、私の新刊『コロナショック』(MdN新書)が発売された。
 本書は、これまで、このメルマガで書いてきたコロナ関係の記事に加筆・修正し、さらに数多くの新データを加えて書きあげたものだ。コロナに関しては、毎日のように事態が進展し、新しい研究データが発表され、各国の政策が動くので、まとめるのに、本当に苦労した。
 ともかく、コロナショックの全体像を俯瞰し、ポストコロナ後の世界がどうなるのかを展望した。そうして、この数カ月で起こった前代未聞の出来事を、あとからキチンと振り返られるように記録した。

『コロナショック』 Amazon
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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