連載395 山田順の「週刊:未来地図」「集団免疫戦略」は成功したのか? スウェーデンの現状から見た日本の今後(中)

問題は死亡者数、北欧諸国の中ではダントツ

 たしかにスウェーデンでは新規感染者も死亡者も減った。しかし、それが集団免疫の結果とは言えない現状では、「戦略は成功していない」という見方もある。さらに、死亡者数を見て、「失敗だった」という見方も根強い。
 死亡者がゼロの日が続くようになったとはいえ、これまでのスウェーデンの累計死亡者数は、人口100万人当たりで見ると世界の国の中でもかなり高いのである。現在、累計感染者数では世界第1位がアメリカ、第2位がブラジルだが、スウェーデンの人口100万人当たりの死亡者数はこの両国よりも高い。
スウェーデン(人口1023万人):感染者数80,422/死亡者数5,743/人口100万人当たりの死亡者数561.4
アメリカ(人口3億2820万人):感染者数4,666,027/死亡者数154,841/人口100万人当たりの死亡者数470.5
ブラジル(人口2億95万人):感染者数2,733,677/死亡者数94,104/人口100万人当たりの死亡者数450.3
※ジョンズ・ホプキンズ大の数値(8月3日現在、以下同)
 このスウェーデンの死亡者数の多さは、他の北欧諸国と比べると、さらに際立つ。
デンマーク(人口581万人)感染者数14,028/死亡者数615/人口100万人当たりの死亡者数105.8
フィンランド(人口552万人)感染者数7,463/死亡者数329/人口100万人当たりの死亡者数59.6
ノルウェー(人口533万人)感染者数9,268/死亡者数255 /人口100万人当たりの死亡者数47.8
アイスランド(人口36万人)感染者数1,915/死亡者数10/人口100万人当たりの死亡者数27.7
 感染者数は人口及び検査数の多寡にも関係しているので、数値そのものを比較するのはあまり意味がない。ただし、人口100万人当たりの死亡者数は、感染拡大をどれほど抑えられたかの目安にはなる。また、人命という見地からも重要だ。となると、やはりスウェーデンの集団免疫戦略は失敗だったと言うよりほかないのだろうか?
 ちなみに、日本の人口100万人当たりの死亡者数は以下のとおり。
日本(人口1億2596万人)感染者数39,113/死亡者数1,013/人口100万人当たりの死亡者数7.94。
 このように、日本の人口100万人当たりの死亡者数は、世界の多くの国々に比べると異常に低い。北欧諸国はもとより、イギリス、フランス、イタリア、スペインなど欧州諸国、アメリカ、ブラジルなどをはるかに下回っている。ただし、台湾、韓国、ベトナムなどのアジア諸国と比べると高い。
 なぜ、このような数値になっているのか? いまのところ、明確な答はない。

やはりロックダウンは効果があった

 人口100万人当たりの死亡者数で北欧諸国を比較してみたが、それで言えるのは、やはりロックダウンは有効だったのではないかということだ。北欧5カ国の中で、スウェーデン以外の国は、みなロックダウン戦略を取り、感染拡大の防止に成功したからだ。
 感染者数も死亡者数もスウェーデンのようには増えず、現在、どの国も感染はほぼ収束している。感染者はまだ出ているものの、1日の新規感染者はデンマークの数十人を例外として、一桁台の数人かゼロである。
 スカンジナビア半島でスウエーデンの西隣に位置するノルウェーは、女性のソールバルグ首相の下、スウェーデンとは対照的な厳しい措置を取った。
 感染者が出始めるや、すべての学校、公共の場を閉鎖し、国民に自宅にいることとテレワークを奨励した。これは強制ではなかったが、国民は積極的に受け入れた。国王ハーラル5世夫妻がイースター中も外出を控えると宣言したことも大きかった。
 また、スウェーデンの東隣のフィンランドでは、史上最年少34歳の女性首相、サンナ・マリン首相が首都ヘルシンキの首都圏であるウーシマー県を完全封鎖した。また、第二次大戦、冷戦の教訓から非常事態に備えて備蓄していた大量のマスクや医療機器、防護服を放出し、コロナ対策に充てた。
 デンマークもフレデリクセン首相の下、北欧でもっとも早いロックダウンでコロナ危機を乗り切った。島国で人口わずか36万人のアイスランドでは、ヤコブスドッティル首相がロックダウンを実施、米企業の協力を得て徹底したPCR検査を行い、クラスター追跡、隔離政策を取った。
 ここまで書いてわかった方もいると思うが、この4カ国のトップはいずれも女性だ。スウェーデンだけが男性のステファン・ ロベーン首相である。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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