連載538 山田順の「週刊:未来地図」「安価地獄」に陥った日本(1) ここまで物価が安いという現実を直視せよ!(上)

連載538 山田順の「週刊:未来地図」「安価地獄」に陥った日本(1) ここまで物価が安いという現実を直視せよ!(上)

 コロナ禍で、さまざまな面で浮き彫りになったのが、日本の後進国ぶり。しかし、まだ多くの日本人が自覚していないのが、日本の物価の安さだろう。いったいなぜ、日本はモノとサービスがここまで安くなってしまったのか?  1人当たりのGDPが上がらない、給料が上がらないなか、物価が安いことはいいことである。しかし、ここまで世界と差がついてしまうと、イヤな気分になる。今回と次回(来週配信)の2回に分けて、日本が陥った「安価地獄」を検証する。

訪日外国人が驚く日本の物価の安さ

 どれくらい前からだろう。日本の物価が安い(つまり海外が高い)と気づき、海外でほとんど買い物をしなくなったのは。かつて、日本人は海外旅行というと、必ず買い物をしていた。酒とタバコをお土産に買い、さらに高級ブランド品を買った。私のような旧世代はとくにそれが習慣になっていた。

 しかし、いまやそんなことをする人はほとんどいなくなった。日用品から高級ブランド品まで、日本のほうが安いからだ。

 コロナ禍の前まで、日本では「インバウンド消費」といって、押しかける訪日外国人観光客の旺盛な消費(爆買い)に湧いていた。コロナ禍に見舞われる前、2019年の外国人観光客の消費総額は約5兆円で、GDPの1%を占めるまでになっていた。

 これをテレビなどのメディアは、「日本製品のクオリティが高いから」「日本のおもてなしが世界的な人気を得た」「クールジャパンの表れ」などと言ってきたが、本当の理由は、日本のモノとサービスが外国人にとって単に割安だったからだ。

 中国人を中心とする外国人観光客が大挙して、デパート、家電量販店、化粧品店、スーパー、衣料品店、レストランなどに押しかけるのは「とにかく安い」からだ。つまり、いまや日本と海外は逆転してしまい、30年前の私たちの姿を、日本にやって来る外国人観光客に見るようになってしまった。

 アメリカから初めて日本に来た人間は、まず、日本の食の安さに驚く。高級店からファミレスまで、どこに連れて行っても、その値段の安さに驚く。

 あまりおカネがない学生は、ファミレスの「ガスト」が気に入って「こんなに安くていろいろなものが食べられるところはない」と、どこに行っても「ガスト」に行く始末だ。

 アメリカ人ばかりではない、中国人も日本の高級中華店が「こんなに安くていいのか」と真顔で驚く。北京ダックは北京よりはるかに安い。

 そうした声を聞きながら、私は「よかった。日本が気に入ってくれて」とは思う。しかし、その反面で、複雑な気分、イヤな気持ちになる。

「ダイソー」が100円なのは日本だけ

 モノが安くなるデフレーションのことを、アメリカでは「Japanification」と呼ぶらしい。その象徴が「100均」(100円ショップ)ではなかろうか。代表的な「100均」と言えば「ダイソー」だが、じつは100円なのは日本だけだ。

 すでに「ダイソー」はアメリカに進出して、西海岸を中心に77店舗を展開しているが、ロサンゼルスやヒューストンの店はベースライン価格が1.5ドル(約165円)である。また、2019年3月にニューヨークのフラッシングにオープンしたニューヨーク1号店は、ベースライン価格が1.99ドル(約220円)である。 いずれも、日本で言う「100均」とは名ばかりで、日本と同じ製品が2倍はする。

【注:1ドル=110円で計算。以下同じ】 ちなみに、アメリカにも「ダラーストア」(Dollar Store)と呼ばれる「1ドルショップ」と「99セントショップ」がある。ダラーストアの2大チェーン「ダラー・ゼネラル」(Dollar General)と 「ダラー・ツリー」(Dollar Tree)は、現在、業績が好調だが、品揃えと品質においては「ダイソー」に及ばない。行ってみれば一目瞭然で、「ダイソー」のほうが高くても品質がいいので、「1ドル以上高く払っても価値がある」と消費者に思わせることに成功している。

 アメリカばかりではない。アジア各国でも「ダイソー」は日本より高い。以下、各国の価格を列記する。
シンガポール:2シンガポールドル(約160円)
マレーシア:5.9リンギット(約150円)
タイ:60バーツ(約210円)
インドネシア:2万5000ルピア(約215円)
ベトナム:40万ドン(約200円)
フィリピン:88ペソ(約200円)
中国:10元(約170円)
台湾:39元(約145円)

 『安いニッポン 「価格」が示す停滞』(中藤玲、日経プレミアシリーズ新書)という本が、現在ベストセラーになっているが、ここに、ダイソーの海外店の価格が高い理由が述べられている。それは、(1)物流費(2)人件費や賃料などの現地経費(3)関税や検査費の3つで、いずれも日本より高いからだという。

 そして、ダイソーの幹部はこう述べている。「いま進出している国や地域すべてで人件費、賃料、物価、そして所得が向上している。20年前ならいくら高品質でも『新興国で200円前後』なんて売れなかったが、いまは現地の購買力が上がったため成り立っている」

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com

>>> 最新のニュース一覧はこちら <<<

 

 

 

 

タグ :  ,