連載760  日本のメディアは偽善者すぎる なぜイーロン・マスクは「長生き」に反対なのか? (上)

連載760  日本のメディアは偽善者すぎる なぜイーロン・マスクは「長生き」に反対なのか? (上)

(この記事の初出は4月5日)

 長生きしすぎして、知力も体力も衰えた老人は“社会のお荷物”である。この厳然たる事実を、日本のメディアはけっして言わない。長寿を礼賛し、老いることの醜さと残酷さ、終末期医療の無駄を指摘しない。これは、大いなる偽善ではなかろうか。

 世界一の富豪で社会変革事業家のイーロン・マスクは、先ごろ、持論の「長寿追求」に反対する考えを改めて表明した。なぜ、彼は長生きに反対するのだろうか?

 

人々が死ななければ社会は進歩しなくなる

 イーロン・マスクが、持論の「長生きには反対」「長寿追求には賛同できない」という話をしたのは、ドイツのメディア大手アクセル・シュプリンガーのCEOマティアス・ドップフナーとの対談の席である。3月27日、彼はドップフナーをカリフォルニア州フリーモントの自社工場に招いて、ウクライナ戦争を含む世界が直面する問題や人類の将来について語りあった。(この対談の模様は「Business Insider」で紹介されている。ちなみに「Business Insider」は、アクセル・シュプリンガー傘下のメディア)
 対談のなかでマスクはまず、「出生率の低下が人類の未来において最大で唯一の脅威」だと述べ、その後に、以下のように語った。それを抜粋してみる。
 「年長者が多いと、社会に閉塞感を生む。なぜなら彼らの大半が考え方を変えないというのが真実だからだ」
 「人々が死ななければ、われわれは古い考えに埋もれ、社会は進歩しなくなる」

指導者が高齢では民主主義は機能しない

 「民主主義が適切に機能するには、政治的リーダーの年齢と人口全体の平均年齢との差が10~20歳以内であるのが理想的だ」
 「われわれはすでに長老支配の深刻な問題に直面していると思う。指導者が非常に高齢な国がとても多い。アメリカはそういう国の一つだ」
 「何世代も上の人物が一般の人々と繋がろうなどというのは、単純に不可能だ」

 「アメリカの建国者たちは、政府の職に就くための最低年齢を定めたが、年齢の上限を定めなかった。それは人々がまさかそれほど長生きするとは思わなかったからだ。想定しておくべきだった」
 「民主主義が機能するためには、指導者は一般の大多数の人と適度に関わりを持てる人物でなければならない。若すぎたり高齢すぎたりすると、親近感が湧かなくなる」

イノベーションのピーク年齢は47歳

 イーロン・マスクが、このような考えをメディアに語るようになったのは、数年前からである。なぜ、そう考えるようになったのだろうか?
 現在、彼は50歳だが、50歳に近づくにつれて、自身の年齢を意識するようになったからではないだろうか。
 イーロン・マスクは世界有数のイノベーターで、それを自認している。自分こそが時代を変えていけると信じて、これまで数多くの先端ビジネスを開拓・投資してきた。
 しかし、人間はいつまでもイノベーターであり続けることはできない。「情報技術・イノベーション財団」(ITIF)の調査では、イノベーションのピーク年齢は47歳となっていて、その後、イノベーション能力は衰えて55歳を限界としている。マスクのような人間が、こうしたことを意識しないわけがない。
 また、先進国において出生率が著しく低下し、国連統計などによると世界の人口が2064年をピークに減少に転じるということも、彼の頭の中にある。人口が減れば経済成長も止まり、イノベーションも起きない。人類文明は危機を迎える。


(つづく)

この続きは5月4日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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