連載781  米対中ロによる「新冷戦」は宇宙に拡大! すでに全人類が監視されている (中2)

連載781  米対中ロによる「新冷戦」は宇宙に拡大! すでに全人類が監視されている (中2)

(この記事の初出は5月10日)

 

ISSと中国の宇宙ステーションの並存

 世界に先駆けて、中国は独自の宇宙ステーションを持つ国になろうとしている。それも、今年中に。
 中国の宇宙ステーション建設計画は「天宮計画」(ティアンゴン・ジーフア)と呼ばれ、中国の宇宙事業をになう「中国航天科技集団」(CASC:China Aerospace Science and Technology Corporation)によって2011年にスタートした。
 これまでに、「長征」(チャンチェン)ロケットにより、有人宇宙船「神船」(シェンチョウ)と無人補給船「天舟」( ティエンチョウ)が何回も打ち上げられ、ISSと同じような高さの周回軌道に載る宇宙ステーション「天宮」(ティアンゴン:国際名CSS:China Space Station)が組み立てられてきた。
 すでにコア・モジュールが完成している「天宮」は、今年後半に予定されている有人宇宙船「神舟15号」と無人補給船「天舟5号」の打ち上げにより、完成することになっている。
 中国の宇宙ステーションが予定通り今年末までに完成すれば、地球軌道上にはアメリカが主導するISSと中国の宇宙ステーションの2つが並存することになる。
 中国の宇宙ステーション「天宮」は、旧ソ連時代が運用した宇宙ステーション「ミール」(Mir)を発展させたものである。大きさはISSの5分の1ほどというが、「中国がここまでコツコツと積み上げてきた技術はけっして侮れない」と専門家は言う。

次に目指すのが有人月探査と月基地建設

 中国では、宇宙での覇権を「制宙権」と呼んでいる。「制海権」「制空権」と同じ扱いだ。中国は、制宙権を確立し、「宇宙強国」になることを目指している。
 習近平主席が掲げる「中国の夢」は、宇宙においてもアメリカを追い越し世界一の強国になることであり、中国航天(CASC)も中国メディアもそれを隠さない。
 中国は、宇宙ステーション建設と並行して、月探査も進めてきた。2007年に月観測衛星の打ち上げからスタートし、2019年1月には、世界で初めて月の裏側に探査機を着陸させた。さらに、2020年12月には無人の月探査機査機「嫦娥(チャンジェ)5号」によるサンプルリターンも成功させた。今後は、月への有人飛行、月面有人基地の建設が計画されている。
 このように中国は、月においてもアメリカに先んじて覇権を確立させようとしている。これまで発表されているところでは、2025年までに有人月探査船を月に送り込み、2030年には月面基地を建設する。
 月周回軌道に宇宙ステーションを建設することも視野に入れている。

中国に負けられない米「アルテミス計画」

 専門家に言わせると、「中国の宇宙開発計画は長期を見据えたもので、おそらく中国建国100周年の2049年を一つのゴールとし、このとき、月と火星を手中に収めようとしているのでは」という。
 最近の中国は、明らかにスペースX社を意識し、スペースX社の次世代ロケット「ファルコン・ヘビー」 (Falcon Heavy)に匹敵する大型の「長征9号」の開発に入っているという。
 こうした中国の動きに慌てたアメリカは、2017年、有人月面探査「アルテミス計画」(Artemis Program)を承認した。この計画は、2025年までに月に人間を送り込み、その後に月面での持続的な駐留を確立することを目指している。そして、最終的に、火星に人類を送るというものだ。
 近年、アメリカでは宇宙開発の民営化が進んできた。これは、NASAが主導し、民間宇宙企業が開発・運営をになうというもので、アルテミス計画では、スペースX社が月着陸船を開発する。また、ISSと同じように、中ロを除く世界各国が協力する。
 「アルテミス1号」は間もなく、この6月には打ち上げられる予定で、「オリオン宇宙船」(Orion Space Ship)を積んでの無人飛行試験となる。「アルテミス2号」は2024年5月に打ち上げられる予定で、有人による月周回を行う。そして、2025年、「アルテミス3号」により、人類女性が初めて月に降り立つことになっている。
 さらに、2026年予定の「アルテミス4号」では、「月軌道プラットフォームゲートウェイ」(LOP-G: Lunar Orbital Platform-Gateway)が建設される。これは、月の周回軌道を回る有人宇宙ステーションである。


(つづく)

 

この続きは6月3日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


最新のニュース一覧はこちら←

 

 

タグ :