連載809  株価はもう上がらない! 世界経済は試練の「長期低迷」へ (二の下)

連載809  株価はもう上がらない!
世界経済は試練の「長期低迷」へ (二の下)

(この記事の初出は6月8日)

 

バブルは政府によって次々につくられる

 バブルは景気の過熱がつくるのではない。このことを経済の専門家まで誤解している。バブルは、政府の経済・金融政策がつくる。したがって、政府が余計なことをしなければ、市場は自律的に動き、調整は自動的に起こる。バブルは崩壊する。
 ところが政府は経済・金融に手を突っ込んで、バブルの崩壊を防ぐために次のバブルをつくり出す。これまで、この歴史が繰り返されてきた。
 1980年代の日本のバブルも、プラザ合意による円高と異常な低金利がつくり出した。したがって、総量規制という抑制策によって完全崩壊した。
 アメリカのリーマンショックに至るまでのITバブル、住宅バブル、金融バブルなどはみな、政府の大規模な規制緩和と経済・金融政策がつくり出した。そのため、それが崩壊すると、政府は公的資金によるベイルアウト(救済のための資本注入)を行い、その都度大規模な金融緩和を実施した。リーマンショック後から行われてきた金融緩和が、今日に至る空前の株式バブルを招いている。
 つまり、バブルは政府がつくり、それが崩壊すると、政府は次のバブルをつくってそれを防ぐ。こうして、世界中にマネーが溢れ、政府債務は限りなく膨張する。
 前回述べたように、リーマンショック時に約2兆ドルだった「ワールドダラー」(FRBのマネタリーベースと各国の中央銀行が外貨準備として保有するドル)は、年々膨張し、コロナ禍に突入した2020年末には9兆ドルを超えた。また、IMFによると、先進国の政府債務残高のGDP比は2021年には120%を大きく超え、これは第2次大戦直後の1946年の124%と同レベルに達した。

 

10兆ドル流出で時価総額は約20%下落

 このように見れば、コロナ難民救済のための財政支援と量的緩和が終われば、いまの株式バブルが終わるのは明白だ。当初、FRBは緩やかに「テーパリング」(量的緩和策による資産買い入れ額を減らすこと)を実行するつもりだった。しかし、昨年半ばからインフレが高進したため、金利を引き上げるとともに一気にQTに転換した。
 これのより、市場にあったマネーは縮小の一途をたどっている。
 昨年の8月に市場関係者の注目を集めたハーバード大学のシャビエル・ガベェ教授とシカゴ大学のラルフ・コイジェン教授による共同論文は、株式市場への資金の流入が株価の変動に与える影響は大きいと指摘し、その実態を明らかにしている。
 そこで、この論文をもとに、アメリカの株式市場から、ドルがいくら流出すると株価の時価総額がどれくらい下がるかを計算すると、10兆ドルで約20%下落するという。
 この10兆ドルという額は、今年の初めからこれまでに失われた額とほぼ符号する。
 すでに、ロビンフッド現象は終わり、アプリ開発会社の「ロビンフッド・マーケッツ」の株価はピーク時の半額まで下落した。今年の1月、発表された決算で売上高の3.5倍を超える巨額の純損失が明らかになり、創業者2人はビリオネアから転落した。
 その後、奇特な投資家によって、ロビンフッド株は再び買われているが、一時のブームは完全に去っている。

 

なぜ日本株はNY株に連動しないのか?

 最近の日本株は、NY株とまったく連動しなくなった。NYダウが下げても、翌朝から始まる日経平均が上げから始まるということが起こるようになった。
 その理由は、きわめて単純だ。世界の主要中央銀行のなかでただ1行、日銀が量的緩和を続け、相変わらずETF買いを続けているからだ。すでに、日本市場は官製市場となり、日銀はカネを刷っては国債と交換して政府に渡すという「財政ファイナンス」を行っている。
 こんな市場が、資本主義自由市場であるわけがない。
 前記したように、自由市場では、株価は経済成長と連動して上下する。日本の場合、官製市場になる前の状況を見ると、GDP が年 1%上昇すると、日経平均株価は約 1000円上がっていた。
 しかし、日銀が量的緩和を始めてからは、経済成長も企業価値も、あらゆる指標が意味をなさなくなった。
 たとえば、コロナ禍になった2020年の日本の経済成長率は-4.8%だった。翌2021年は+1.6%と回復したが、それでもこの2年間はマイナス成長である。
 これでは株価が上がるはずはないが、実際は上がった。
 そのため、「日本株は持ちこたえている」という“ウソ”を、メディアまでも言うようになった。


(つづく)

この続きは7月14日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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