Vol.67 NYAFF特別インタビュー 映画監督 飯塚花笑さん

 

 7月15日〜31日、リンカーン・センターとアジア・ソサエティーの2会場で、「ニューヨーク・アジアン映画祭」が開催された。

 同映画祭は、アジア映画の普及とアジア映画の多様性と素晴らしさを体験する機会を提供することを目的に開催されているが、新型コロナウイルスの影響で2020年はオンライン開催、21年はハイブリッド開催となっていた。今年はコロナ後3年ぶりの完全対面開催となり、合計67作品が上映されたほか、20周年を記念して過去最多のゲストが参加した。

 日本からは、俳優の阿部寛がアジアで最も活躍する俳優に与えられる「スター アジア賞」を日本人で初めて受賞。出演作の「異動辞令は音楽隊!」がワールドプレミア上映された。 本紙では、同映画祭で上映された日本の4作品の監督、俳優に話を伺った。

 

世界は僕らに気づかない Angry Son
監督 飯塚花笑さん

 

「当たり前に違った他者が隣にいて。それを認めることを伝えたい」

 

© LesPros entertainment

 

Q. 本作品を制作された理由やきっかけはなんですか?

私が小学生の時、フィリピン人のお母さんと日本人のお父さんを持つ友人がいました。子どもの頃、その子の家に遊びに行って帰ろうとすると、すごく寂しがるんです。大人になってから、お母さんが夜、働きに行くから寂しかったんだということを理解しました。1990年代に、タレントやフィリピンパブで働いて、国に仕送りをする多くのフィリピン人女性が日本に渡航してきました。彼女たちは日本人男性と出会って、日本人との間に多くの子どもが生まれました。私の友人もまさにその一人でした。
この言い方が適切か分わからないですけど、彼らのルーツは面白いなと思い、今回の映画を作るきっかけとなりました。そしてもう一つ、昨今、日本でもダイバーシティという言葉が一般的になってきて、いろんな国や人種の方々と共存していこうという流れができていると思うのですが、私には何かうわべだけのように思えてしまって。実は問題が根深くあるんじゃないかということに着目して本作品を制作しました。

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Q. 本作品を通して、伝えたいメッセージは何ですか?

人って、人種やセクシュアリティ、いろんな違いやルーツを抱えて生まれてきていると思います。その違いを受け入れようという言葉をたくさん聞くようになりましたが、それが果たして一人ひとりの心の中に、ちゃんとあるのかって言ったら、まだ浸透してきてないものだと考えています。当たり前に違った他者が隣にいて、それをただただ認めようということを伝えたいですね。


Q. 主人公の純悟がお母さんにカメラを向けるシーンが何度かありますが、そこにはどんな意図が込められていますか?

最初、純悟はカメラを通さないと、お母さんとちゃんと向き合えない状態でした。母親のルーツにちゃんと向き合って考えてこなかったんですけど、徐々にカメラを通さなくても、彼女のありのままの姿を見つめられるようになっていくっていうような、そういう表現をしたかったので、カメラという道具を使いました。

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Q. これまで社会性の高い作品を世に出されていますが、何か影響を受けた出来事などはありますか?

私自身のアイデンティティに基づく部分が大きいです。もちろん、この監督の作品が好きとか単体例はあったりしますが、映画作りというのは私が実現したい社会であったり、世の中の人に気づいてもらいたいと思うことを表現する、ある意味道具だと思っています。私自身がセクシュアルマイノリティとして生まれて、今もなお、日本の中でセクシュアルマイノリティに対するヘイトや差別の問題が常に有り続けています。そのことは政治的に主張するわけではないのですが、作品を通して何か人が考えるきっかけを作れればということが自分の一番根幹のモチベーションになっています。(7月28日取材)

飯塚花笑(いいづか かしょう)

映画監督、脚本家。1990年生まれ。群馬県出身。大学在学中、映画監督の根岸吉太郎、脚本家の加藤正人に師事。トランスジェンダーである自らの経験を元に制作した「僕らの未来」(2011年)が、ぴあフィルムフェスティバルにて審査員特別賞を受賞。バンクーバー国際映画祭等、日本国外でも高い評価を得た。2022年、トランスジェンダーとシスジェンダーの10年を描いた映画「フタリノセカイ」が日本全国で上映。

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世界は僕らに気づかない
群馬県太田市でフィリピン人の母、レイナ(GOW)と暮らす高校生の純悟(堀家一希)。父のことは何も聞かされておらず、毎月振り込まれる養育費だけが父との繋がりだ。純悟には同性の恋人がいるが、彼からパートナーシップを結ぶことを望まれても、自身の生い立ちが引け目となり決断できずにいる。ある日、母親のレイナが再婚したいと恋人を家に連れて来る。見知らぬ男と一緒に暮らすことを望まない純悟。生きづらさを抱えた青年を巡る「愛」についての物語。

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