第3回 ニューヨーク アートローグ

第3回 ニューヨーク アートローグ

アートを身近にするフェア。だれでもコレクターに
New York Art Fairs

 

知っておきたい現代美術アートフェア

 アート界を支えているのは作品を生み出す芸術家、美術館や画廊、画商、修復家、美術愛好家とコレクターそれに国際芸術祭やアートフェアなどがある。今回紹介するのはアートフェア。ビエンナーレといった芸術展とは異なり作品売買が目的とは言え、最先端のトレンドを一望できる唯一の場だ。世界中の画廊が一堂に集結し国際的な新人作家を発掘し、いち早く新作を入手するチャンスもある。

 最もポピュラーなフェアに1970年から続くスイスのアートバーゼルがある。あらゆる美術のジャンルから精鋭作品が紹介される。4日間のフェアに世界の250以上の画廊が出展しおよそ4千人もの作家が紹介される。来場者は7万人を超えることも。会期中には屋外での巨大なインスタレーションやアート界の主導者とのパネル討論会、公式プログラムに入りきれないアーティストを紹介するセカンド・フェアのSCOPE(スコープ)、VOLTA(ヴォルタ)なども同時に開催される。現在アートバーゼルの傘下で2002年に米国「アートバーゼル・マイアミビーチ」が毎年12月に開催されマイアミ市の一大イベントとなっている。また2008年「アートバーゼル香港」(例年3月)、2022年10月に「パリ+、パーアートバーゼル」が始動しその勢いを増している。

 もう一つ、米国で最も歴史ある「アーモリーショー」に触れたい。1913年に開催された大規模な国際現代美術展でマンハッタンのレキシントン街と25丁目の陸軍州兵第69連隊兵器庫で開催されたことから「アーモリーショー」という名称で呼ばれている。ピカソのキュビズム作品やマティスのフォビズム、マルセル・デュシャンのコンセプチュアルな作品などヨーロッパ美術の動向が初めて米国に紹介され、これまでに見たこともない表現の是非を巡り大論争を呼んだのである。入場料があったにもかかわらず美術関係者だけでなく一般市民も含め約25万人が詰めかけたのだ。米国の美術界を刺激し、美術館やコレクターが近代美術を蒐集するきっかけとなった。そして同フェアが現代美術と一般大衆との架け橋となる大きな役割を果たした。1994年に一新され「ザ・アーモリー・ショー」として開催規模を広げている。今年は9月8日から10日までジャビッツ・コンベンションセンターで開催予定。

 

ニューヨーク春の見ておきたいアートフェア情報

 ニューヨークでは年間を通じて12以上のアートフェアが春と秋に開催されている。多種多様な作品が出展されるフェアはアートの見本市といえよう。時間をかけて作品を見て回るだけでも楽しいしイベントに参加すればさらに充実する。美術の知識がなくても思いがけずときめくアーティストを発見できれば最高だろう。小さなアパートでも自分の好きなアート作品を飾れば空間は豊かに広がることは間違いない。では、この春のおすすめフェアを紹介しよう。(詳細はサイトで要確認)

 

Outsider Art Fair New York (アウトサイダー・アートフェア)
https://www.outsiderartfair.com/new-york
3月2日(木)―5日(日)
Metropolitan Pavilion(125 W. 18th St)  

 アウトサイダーアートとは既存のアート分野に属さず独学で創作された作品群。実際に芸術的な訓練や影響を受ける環境になかった精神疾患患者、知的障害者、交霊体験者、野宿生活者の独創的な作品が発見され評価されてきた。1945年に抽象画家ジャン・デュビュッフェが、美術教育を受けていない者が他者を意識せずに創作した芸術をアール・ブリュット「直接的・無垢・生硬な芸術」と呼んだのが始まり。アウトサイダーアートはそれに対応する英米語として1972年に名付けられた。同フェアは1993年から始まりアウトサイダーアートに特化した唯一のイベントで毎回世界中から注目を集めている。別次元の世界に引き込まれるアートだ。サイズの小さな絵画作品も多いので比較的入手しやすい。

 

Affordable Art Fair (アフォーダブル・アートフェア)
https://affordableartfair.com/fairs/new-york-spring/
3月22日(水)―26日(日)
Metropolitan Pavilion (125 W. 18th St)

 前述した国際的なフェアとは違い、その名の通り手に入りやすい価格帯のアートを地元、国内外のギャラリーから厳選した1000点以上の作品を集めている。新進気鋭アーティストの作品を100ドルで手に入れることも。プチ・コレクターへの第一歩が可能となりそうだ。アーティストが会場にいることもあり、気軽に話し交渉できるのも大きなメリット。

 

Frieze (フリーズ)
https://www.frieze.com/fairs/frieze-new-york
5月17日(水)―21日(日)
The Shed (545 W. 30th St)

 1991年にロンドンで創刊された革新的な現代美術雑誌フリーズによるフェア。アーティストに新作を依頼し、刺激的で野心的な展示を求める。議論や討論の場であると同時に、アートが発見されて販売される場を目的とする。現在ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス、ソウルで開催されている権威あるフェア。

 

Volta (ヴォルタ)
https://www.voltaartfairs.com/new-york
5月17日(水)―21日(日)
Metropolitan Pavilion (125 W. 18th St)

 2005年にバーゼルでデビュー。2008年ニューヨークで開催されたフェアはアーモリーウィークのような混雑したトレードショーに代わる場を確立。ダイナミックなソロプレゼンテーションや、アーティストによるキュレーション、対話が実現されている。ニューヨークとバーゼルで若手ギャラリーが主要都市のアート市場に参加することを目標としている。最先端の作品が揃っている。

Photo by Kouichi Nakazawa

梁瀬 薫(やなせ・かおる)
国際美術評論家連盟米国支部(Association of International Art Critics USA )美術評論家/ 展覧会プロデューサー 1986年ニューヨーク近代美術館(MOMA)のプロジェクトでNYへ渡る。コンテンポラリーアートを軸に数々のメディアに寄稿。コンサルティング、展覧会企画とプロデュースなど幅広く活動。2007年中村キース・ヘリング美術館の顧問就任。 2015年NY能ソサエティーのバイスプレジデント就任。


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