【子どものメンタルヘルス】専門家インタビュー ニューヨーク日本人教育審議会 教育相談室相談員

ニューヨーク日本人教育審議会 教育相談室相談員

 

「公立校には公的ライセンスを持ったメンタルヘルスの専門家がいます。何かおかしいと思ったらアポを取って、オンラインまたは対面で相談が可能です」

 

Q. コロナ前と比較して、どのような心の不調を抱えるお子さんが増えたのでしょうか?

バーンズ:アメリカの学校では昨年9月からアクリル板などを外して、なるべく以前の状態に戻そうとしていますが、コロナ禍での制限された生活の影響を今も引きずっている子どもがいます。心の問題はロックダウン中の方が大変でした。転勤してきたばかりでまだ学校にもアメリカ生活に慣れていないのにずっと家にいて、プレイデートもできなければお友だちもできず、英語がまったく身に付かずに悩んだご家庭がありました。

森:リモート学習中は不安感・抑うつ気分、集中力の低下、生活リズムの乱れ、スクリーンタイムの増加などが見られました。人はストレスが高い中にいると、ネガティブな目で他人や自分を見てしまいがちです。家族で長時間一緒にいることで互いの行動が目に付いてしまい、親子や家族関係の悪化につながることもありました。さらに、コロナ後には学校への再適応に困難を生じることもありました。慣れない英語で現地校に通うこと自体がそもそもストレスとなります。特に発達障害がある場合、元々集団行動に問題が起こりやすいといえます。一年自宅で過ごした後、学校生活へ戻るのに困難を示す子どもも少なくありませんでした。

Q. ストレスが体の不調や行動に現れた際に、しつけの問題や反抗期と、どう分けて考えるべきでしょうか?いつカウンセラーに相談すれば良いですか?

森:毎日の登校や学業をこなすのに困難が起こったり、朝の体調不良が続くのに検査で異常が無いなど、子どもの生活に大事な側面で何らかの支障が出ているなら専門家に相談することをお勧めします。また、親子関係が悪循環化していろいろ対応しても改善しない・悪化する場合にもご相談ください。親御さんにぜひ知っておいていただきたいのですが、アメリカの公立校には公的ライセンスを持ったメンタルヘルスの専門家(スクールサイコロジスト、ソーシャルワーカーなど)がいます。親が何かおかしいと思ったら直接アポを取って、オンラインまたは対面で相談が可能です。守秘義務が徹底されており、相談が外部に漏れることはまずありません。また通常、担任教師と定期的に連絡し合い、子どもがストレスを抱えていることを伝えれば、宿題の量や提出期限など、必要に応じて無理のないものに調整するなどのサポートを得ることができます。

バーンズ:日本のお子さんには何でも完璧にこなそうとする子がたくさんいます。宿題をするよう躾けることは重要ですが、中学生以降はお子さんが自分で状況に合わせて調節ができるよう育てることも大事です。やりたいこと、やらなくてはいけないことの中から、自分の責任で優先順位を付けて対処していくことは、人生でも大切なスキルになります。親御さんも一緒に考え、失敗するのも込みで子どもに任せてみて、それも含めて練習なんだということ、また、柔軟性を持ってコントロールして構わないのだ、と、親も子も心に留めておくと気が楽になると思います。

 

Q. 教育やしつけに対する日米の考え方の違いなどは、カウンセリングに影響を与えるのでしょうか?

バーンズ:アメリカでは先生も親御さんもとにかく子どもをよく褒めて、楽しかった?といつも聞いています。日本人は褒め下手ですし、今日は頑張った?と聞いてしまいがちです。そうすると、いつも頑張らなきゃいけないんだ、と受け取めて、涙ぐましい努力をしてしまうお子さんも出てきます。だから褒め方を考えてあげてほしいです。たとえば、お子さんとしてはただ赤いTシャツを着ていただけでも、よく似合っているね!と声をかけてあげると、努力の結果ではなくあるがままを褒められた子どもはちょっといい気分になれます。そういう経験の積み重ねが安心感へと繋がります。学校では褒められるのに家に帰るとまったく褒められない、と感じるお子さんもいるのです。

森:親御さんには、子育てのカルチャーギャップを常に意識していただきたいです。現地校に通う子どもたちは、学校で一日の大半を過ごし、アメリカ人の友人宅にも遊びに行ったりして、アメリカ式の子育てや感情表現に慣れています。親から通常の日本のやり方で褒められても、それが伝わらないこともあります。アメリカでは子どもの良いところを積極的に見つけ、褒めて伸ばすという考えが主流です。時には子どもの立場に立って、彼らがどんな思いをしているのかも考えてみてあげてください。異文化やコロナ下の生活で、何かとストレスを感じたり、自信を失いやすい環境にいる子どもたちです。些細なことでも積極的に褒め、ポジティブ・フィードバックを心がけてあげましょう。またアメリカの家庭ではルールを決める際、納得ができるようその必要性を説明したり、子どもの意見も聞きある程度取り入れるというやり方が一般的です。親が一方的にルールを決め子どもに従わせるというやり方は、子どもの反発や憤りを呼び、親子関係に悪影響を及ぼすことにつながりかねません。時にはご自分の子育てを振り返り、何かうまくいっていないことがあれば、他やり方を取り入れるなど柔軟な対応が望まれます。

バーンズ:大げさに褒めろというのではなく、褒め方にそういう違いがある、と理解してください。お子さんが日本人の褒め方をネガティブに受け取らないよう補足してあげることが大切です。たとえば、お父さんの褒め方が微妙でも、お母さんの方で、あれでも頑張って褒めていたよね、と解説してあげることで、子どもは我が家での褒め方のニュアンスを理解できるようになります。そのサポートが無いと、家では褒めてもらえないと感じたままになったりします。

森:よく親御さんにお勧めするのは、書いて伝える方法です。ごはんを美味しそうに食べてる の見て嬉しかったよ、といった何でもないことで良いので、毎日一つ書いて枕元に置いたり、大きい子ならラインなどで送っても良いと思います。親からすれば、そんなことで?と思うかもしれませんが、子どもはそのメッセージを大事にして後で見返しているものです。毎日そのようなポジティブ・フィードバックを枕元に置くことで、朝起きられなかった子が笑顔で食卓に降りてくるようになった例もあります。子どもの気分や自尊感情、親子関係にも役立ちます。是非お試しください。

この続きは3月8日(水)発行のデジタル版(アプリ、メルマガ、ウェブ)に掲載します。

スクール・サイコロジスト バーンズ 亀山静子氏
クリニカル・サイコロジスト 森真佐子氏
タグ :