連載991 女性に見限られた国ニッポン 知らず知らずに進んでいる海外流出の現実 (下)

連載991 女性に見限られた国ニッポン
知らず知らずに進んでいる海外流出の現実 (下)

(この記事の初出は2023年3月21日)

 

いまだに解消されない「Lカーブ」

 すでに何度も書いてきたが、日本は「女性差別大国」である。そのひどさといったら、女性が独立して1人で生きていくのがつらい、生きていくのが困難という状況だ。男女平等と言いながら、女性の賃金は男性と同じ仕事をしても男性の7割程度しかもらえない。
 さらに、女性の場合、出産・育児などで一度職場を離れると、復帰すらできなくなっている。
 日本の女性の正規雇用比率を、5歳刻みの年齢階級を横軸として折れ線グラフにすると25~29歳をピークに右肩下がりの線を描く。これがいわゆる「L字カーブ」と言われるもので、結婚、妊娠、育児などでいったん退社すると、社会復帰は非正規雇用に限られてしまうのである。
 女性の社会進出が進んだなどと言ってはいるものの、たとえ女性全体の就業率自体は上がっても、L字カーブが示すように、その受け皿は正規雇用ではなく非正規雇用が主体だ。これでは、少子化は当たり前で、女性は生きていくだけでも、もやっとである。
 しかも、子どもを出産しても、家事・育児は女性の役割と言わんばかりの目に見えない圧力が、いまだに社会に存在する。さらに、選択的夫婦別姓の導入が進まないことや、女性が描けるロールモデルがないこと、将来に目をやれば年金受給が不安なことも、女性の生きづらさを助長している。
 これでは、現状に目覚めた女性から、日本を出て行くのも当然だろう。

「リケジョ」と「美容師」が国を捨てる

 日本を出て行く、日本を見限る女性の代表例を二つあげたい。一つは「リケジョ」、もう一つは「美容師」だ。
 日本は理系の女性、いわゆる「リケジョ」に徹底して冷たい国である。理系の大学入学者に占める女子の割合は、この40年間で9%から36%と4倍に増加したが、その就職となると男子中心。リケジョは一部企業を除いて、見向きもされない。
 したがって、優秀なリケジョほど、この国を出てゆき、海外の企業に活路を求める傾向が強くなっている。
「OECD」(経済協力開発機構)は、日本では女性の理系人材の育成が遅れていることを指摘している。大学で理系を選択する女性が増えたものの、その割合はOECD諸国と比較すると最低に近く、正当な賃金を払う職場も少ない。
 一方の美容師はもっとひどい。これは国家資格だから、養成学校に通って試験に合格してなることができるが、いざ、就職してみると賃金は安い。手取りで15万円と言ったところが一般的だ。そのため、離職者も多い。
「長時間労働、研修・仕事に必要な道具類はぜんぶ持ち出しで手元にはほとんど残りません。やりがいだけでやって来ましたが、もう限界」という話を聞いたことがある。
 この女性は、「海外なら正当に技術を評価してくれ、高い報酬が得られる」と、努力を重ねてアメリカに渡った。
 日本人美容師は手先が器用で、技術力が高いこともあって、海外では引っ張りダコである。語学ができるのなら、日本にいるほど不幸になる。
 各種統計資料を見ると、コンビニは全国で約55000軒、歯医者は約68000軒、接骨院は約15万軒。それに比べて、美容院は約30万軒もある。これでは、過当競争、供給過多で、少ないパイを奪い合っているに過ぎない。

いまや世界は「大移住時代」に入った

 コロナ禍、ウクライナ戦争、気候変動と、世界に不安要素は山ほどあるが、現在がかつてないほどのグローバル時代であることは間違いない。ネットが進展したこともあり、海外での就労やビジネスチャンスは、今後ますます増加する。いまや、テレワークやリモートワークも普及し、国境を超えて仕事をすることもたやすくなった。
 その意味でいくと、いまや世界中が「大移住時代」に入ったと言っていい。
 なにしろ、移民大国のアメリカですら、国を捨て他国に移住する人間が多くなっている。とくに大統領がトランプになって分断が進むと、「こんな国に暮らしていられない」と脱出する中流上層が増えた、移住先は、カナダやニュージーランド、オーストラリア、シンガポール、ドバイなどだ。最近では、オランダ、スペイン、アイルランドなどの欧州も増えた。
 国を捨てる人間、つまり移民の大量排出国は、なんといっても中国である。中国人は国内でカネをつかむと必ずといっていいほど国を出る。ロシア人もウクライナ戦争が助長した面もあるが、国を出ていく傾向が強い。
 中国人の行き先は、シンガポール、シアトル、クアラルンプールなどにかなり偏っている。
 このような状況を考えると、今後、日本の若者たちはもっと国を出ていくだろう。日本女性の海外流出も止まることはないだろう。こうしたことが回り回って、国内にどんな影響を与えるかは断言できない。
 ただ、今後の日本は、人材においても空洞化していく。それは間違いないと言える。


(つづく)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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