連載999 カーボンニュートラルで、 やがて中国が一人勝ちするという「悪夢」 (完)

連載999 カーボンニュートラルで、 やがて中国が一人勝ちするという「悪夢」 (完)

(この記事の初出は2023年4月11日)

 

石炭の最大産地の山西省で進む再エネ化

 一方で石炭火力を使い続け、一方で再エネを促進する。そうして、段階的に石炭火力を削減していくという中国の戦略は、すでに大規模に実行されている。
 山西省は中国最大の石炭産地で、その生産量は世界の生産量の約半分に匹敵する。この山西省の石炭産地の中心地である大同周辺の山々を、いま、中国はソーラーパネルで覆い尽くそうとしている。100ヘクタール規模の太陽光発電所が次々に建設され、山西省は石炭産地から太陽光発電の中心地になろうとしているのだ。
 また、山西省では、石炭から水素をつくるという「水素プロジェクト」が進んでいる。すでに大同市では、3カ所の水素製造プラント、数十カ所の水素スタンド、最大5カ所の水素発電所の建設計画が進んでいる。中国政府は、2025年までに最大年間20万トンのグリーン水素を製造し、5万台の水素燃料自動車(HFCV)を普及させるという目標を掲げている。
 強権国家であるだけに、中国は国家プロジェクトならば、強引にでも達成できる。ソーラーパネルが環境破壊だという反対運動など起こらない。起こったとしても、簡単に潰せる。中国では、圧倒的なスピードで、地球温暖化対策が進むだろう。

心もとない日本版グリーンニューディール

 揺り戻しは多少あろうと、欧米中心の世界は、いま、地球温暖化対策を強力に促進している。欧州はもとより、バイデン政権が成立させた「インフレ抑制法」により、アメリカのグリーンニューディールは、今後どんどん進む。
 カーボンプライシング制度、国境炭素税などの導入は、地球温暖化対策が経済政策であるということを如実に物語っている。これに、中国が加われば、世界がどうなっていくのかは想像がつく。
 では、日本はどうなるのだろうか?
 日本は現在、GX(グリーントランスフォーメーション)法案が国会で成立するという状況にある。これは日本版グリーンニューディールとされているが、その中身はと言うと、原子力発電所の「60年超」運転を可能にする、5つの関連法の改正案を一本化した「束ね法案」に過ぎない、
 再エネの主力電源化としながらも、脱炭素の定義がないため、道筋が見えない。はっきりしているのは、原子力発電所の再稼働、運転延長だけである。
 しかも、財源は20兆円という多額の国債(GX債)と言うのだから、あまりに安易で、実現性に乏しい。

本来得意な分野で敗戦を迎えるのか?

 自動車産業に話を戻すと、世界でEV化が進行するなかで、トヨタをはじめとするに日本メーカーは、今後、テスラや中国BYD(ウォーレン・バフェットが出資)、独ベンツなどと、厳しい競争に突入しなければならない。とくに中国市場での競争は激化する。
 昨年、中国では販売車の4台に1台がEV(PHEVも含む)となった。今年は昨年末で補助金が打ち切られたため、年初から販売台数が落ち込んでいるが、それも一時的なもので、大筋でのEVシフトは変わらない。
 中国でEVの販売数が伸びてきた結果、その割をもっとも食ったのが、日本車である。
 ホンダと日産の中国での販売台数は、ここ2年間減少しており、トヨタは昨年初めて減少した。今年の2月の中国の新車販売台数のシェアは、国産車52.3%、ドイツ車19%
 日本車15% アメリカ車9% 韓国車1% となっている。日本車は、このシェアをはたして維持できるのだろうか?
 クルマにしても、太陽光発電、蓄電池にしても、本来、日本がリードしてきた分野である。東日本大震災という未曾有の危機を経験したうえ、地球温暖化、気候変動が進んでいる現状から、これらの分野はもっと強くなる可能性があった。
 それが、いまや中国にも立ち遅れることになった。
 政治家、官僚、業界のトップに先見の明がないうえ、東日本大震災で思考が停止してしまったとしか思えない。このままさらにガラパゴス化していけば、日本は「地球温暖化敗戦」を迎えてしまうだろう。それは、まさに「悪夢」としか言いようがない。


(つづく)

 

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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