連載1004 「温暖化敗戦」確定か! 「GX推進法案」は原発推進でエネ転換は先送り  (完)

連載1004 「温暖化敗戦」確定か!
「GX推進法案」は原発推進でエネ転換は先送り  (完)

(この記事の初出は2023年4月18日)

 

日本は国連の警告に対して真剣でない

 日本初のETSは、東京証券取引所で、「GXリーグ」と名付けられて、経産省主導の下に実証実験として始まった。この構想は2022年2月に公表され、当初は440社が参加した。
「GX推進法案」では、このGXリーグを本格稼働させるとしている。日本のETSはEUの「EU ETS」のパクリと言え、まずは企業に無償でCO2排出枠を配布することからスタートして取引を開始する。
 そうして、2026年度からは取引に参加する企業の対象を広げ、ルールも厳格化する。参加企業は2030年までに実現可能な温室効果ガス削減目標を設定し、もし未達だった場合には、排出量取引の実施状況を公表することが義務付けられる。
 さらに、2033年以降に、電力会社のCO2排出に対して排出枠を有償で配分する制度を開始するとしている。
  前記したように、国連は2020年代の10年間をカーボンプライシング達成のための“勝負の10年間”としている。しかし、「GX推進法案」によるカーボンプライシングの本格稼働は、2030年以降である。
 となると、日本は国連の警告に対して真剣ではない、脱炭素に真摯に取り組んでいないと言われても仕方あるまい。

国債を財源とし経産省がすべてを仕切る

 どんな法案も、実施するには財源がいる。
 岸田内閣は、2022年に「GX推進会議」の設立に際して、10年間で官民合わせて150兆円超をカーボンニュートラルの達成に投じると表明した。
 その財源は、炭素税や排出権取引で徴収した税金だが、とりあえず「GX経済移行債」という国債を20兆円規模で発行してまかなうことになった。
  「GX推進法案」では、財源を(1)補助金を用いた産業の脱炭素化支援、(2)そのための財源を当面調達する国債(GX経済移行債)の発行、(3)国債を将来償還するための財源としてのカーボンプライシング(排出権取引制度と炭素賦課金)を導入するとなっている。
(1)の補助金は、たとえば鉄鋼業では水素還元製鉄、セメント産業ならばグリーンセメントなど、CO2を排出しない製法への転換を促すために、政府が支出する。この補助金を当面、「GX経済移行債」でまかなうというのだ。
 つまり、これまで政府が特定産業を保護してきた方法となんら変わりない。その結果、日本の家電、半導体、液晶などは、国際競争力を失いことごとく敗戦を喫した。しかも、すでに国債残高1000兆円を超える赤字財政のこの国で、さらに国債を発行しようというのである。日本政府は、完全に常軌を逸している。
 「GX経済移行債」の発行を決めるのは政府であり、それは閣議決定で国会ではない。というのは「GX推進法案」では、経産省の下に推進機構」が設けられ、ここが日本の脱炭素政策のすべてを取り仕切ることになっているからだ。
「GX推進機構」は、経済産業大臣の認可法人であり、業務計画、財務、会計などは、「経済産業省令」によって定めるとされている。
 このシステムではたして、有効な温暖化対策がなされるだろうか? 

G7でただ1国違う方向に向かっている

 150兆円超と言えば、巨額投資である。となれば、温暖化対策に関して、本当に有効な案件におカネが使われなければならない。ところが、「GX推進法案」は、その目的とする脱炭素、カーボンニュートラル達成のための再エネ転換には、大した予算が計上されていない。150兆円超のうち31兆円と、全体のわずか20%程度に留まっている。
 太陽光発電、風力発電、地熱発電などの進展とその周辺技術、周辺産業の育成のほうが、石炭火力を含む化石燃料による発電、原子力発電より優先順位が高いはずだが、そうなっていない。化石燃料と原発を最大限活用することに重点が置かれ、再エネは二の次なのである。
 これに対してEUとアメリカは、再エネに巨額の投資をする法案を成立させ、すでにそれを実施している。欧州のグリーンニューディールは、2050年までにGHGの排出量を実質ゼロの社会・経済を構築することを主眼とし、再エネのインフラ整備に重点が置かれている。
 アメリカは、バイデン政権が成立させた「インフレ抑制法」(IRA)により、2030年までに2005年比でCO2の排出量を50~52%削減することを決定し、そのために、太陽光発電や風力発電など、再エネ技術にかかわる国内製造業に大規模な優遇策が実施されている。
 EU、アメリカとも、これらの投資はいま現在の進行形だが、日本は2030年代と、約10年も先である。しかも、日本の目指さす方向は、EU、アメリカと違っている。G7においては、日本はただ1国違う方向に向かっている。

気候経済に対処しないと「失われる半世紀」に

 繰り返し述べるが、これからの経済は「気候経済」である。温暖化対策に投資しなければ、発展もリターンもない。
 つまり、脱炭素化こそ、今世紀の経済・産業における最重要の競争領域である。
 ところが、日本にはこのことに対する危機感が薄い。そうでなければ、こんな法案をつくるはずがない。
 私には、日本が自ら衰退の道を選び、自滅しようとしているように見える。いまだ脱炭素化はコストがかかり過ぎる。やっても意味がないと言っている企業人がいる。
 なぜ、この新しい経済、「気候経済」をチャンスと捉えないのだろうか。まだ、日本にはこれを勝ち抜く技術が残っているはずだ。
 脱炭素化の遅れは、この先、日本をさらに「失われる40年」、「失われる半世紀」に向かわせる。このままでは、「温暖化敗戦」は必至だろう。
(了)

 

【読者のみなさまへ】本コラムに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、
私のメールアドレスまでお寄せください→ junpay0801@gmail.com

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

タグ :