連載1027 食料危機は本当なのか? 食料自給率38%を煽る日本政府の欺瞞 (中2)

連載1027 食料危機は本当なのか? 食料自給率38%を煽る日本政府の欺瞞 (中2)

(この記事の初出は2023年5月30日)

 

最大の原因は地球温暖化による「気候変動」

 世界最大の小麦生産国は中国である。その中国で、2022年は過去にない小麦の価格上昇が続いた。それは、前年の豪雨で作付けが遅れ、それにより収穫量が大幅に減ったからだ。そのため、中国政府は、2022年になって3回も農家に補助金を支給した。
 さらに世界第3位の小麦生産国のインドも、2021年来の異常気象により収穫が低減し、2022年の5月に小麦の輸出を停止した。
 世界の小麦生産量のトップ5(2022)は、1位:中国、2位:EU、3位:インド、4位:ロシア、5位:アメリカだが、この5カ国すべてで、近年は毎年のように異常気象による生産減が起こっている。
 気候変動による異常気象は、毎年、前年を上回って激化している。もはや、「記録的」とか「観測史上初」という言葉は日常茶飯事になり、それを伝えるニュースにマヒしてしまった人も多いと思う。
 北米でも中国でも、そして欧州でも記録的な豪雨と熱波が繰り返され、干ばつが世界中で発生している。とくに欧州は、2022年の夏は、歴史的な干ばつの影響でドイツのライン川の水位が低下して大型船が航行できなくなったり、セルビアのドナウ川で第2次世界大戦中に沈められたドイツの軍艦の残骸が川から姿を現わしたりした。
 こんなことが続けば、農産物はみな不作となり、価格はさらに上昇する。欧州の農業大国フランスは、歴史上にない干ばつで、ありとあらゆる農産物が不作となり、秋のワインの生産量が大幅に落ち込んだ。
 農産物は、たとえ1℃の気温上昇でも、品質に影響する。また、収穫量が減り、収穫期が大幅にずれる。

日本は楽観ムードだが世界では暴動も

 今年は春の訪れがあまりにも早く、東京では3月14日に桜が開花した。そのため、例年より2週間ほど早くお花見が始まった。また、5月半ばに30℃を超える真夏日が記録され、東海3県では35℃を超える猛暑日が記録された。
 こんな状況なのに、日本では、地球温暖化に対する関心が薄い。人々は猛暑も暖冬も当たり前のように受け入れ、それに合わせた生活を楽しんでいるように見える。政府もまた、関心が薄く、4月に成立した地球温暖化対策のための「GX推進法案」は、欧米に比べたら完全に周回遅れと言える代物だった。
 メディアもまたしかり。「G7広島サミット」での脱炭素をめぐる各国の論戦は、ほとんど報道されなかった。
 しかし、すでに世界の食料危機は、暴動レベルにまで達している。食料品の価格の高騰が原因で、2022年には、スリランカ、インドネシア、ペルー、パキスタンなどで、本当に暴動が起こった。スリランカでは政府が転覆してしまった。
 もっとも悲惨だったのは、パキスタンである。大洪水に見舞われたパキスタンでは、家を失った被災者のなかから、餓死者まで出た。このような状況は、この先、豊富な外貨によっていくらでも食料を輸入できる先進国にも及ぶ可能性がある。これが、日本も巻き込まれる本当の食料危機だ。なぜなら、輸入できる食料そのものがなくなるからだ。
 2022年の大規模な気候変動は、2023年の農業生産に大きく影響し、ほとんどの農産物の取引で、在庫の取り崩しが当たり前になっている。その在庫が底をついたときから、本当の食料危機が始まるだろう。 
(つづく)

この続きは6月23日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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