Vol.70 ミュージシャン・YOSHIKIさん

ミュージシャン・YOSHIKIさん

 

LAを拠点に国際的に活躍するYOSHIKIが、10月に世界四都市でクラシックコンサートを行う。『Requiem(レクイエム)』という新曲のタイトルを冠したこのツアーは、自曲をピアノとオーケストラで演奏するアルバム『Yoshiki Classical』の10周年記念でもあり、ツアーに向けての意気込みを聞いた。

 

母へ捧げるレクイエム
挑戦する姿、そして愛の連鎖を広げたい

Photo credit: YOSHIKI


母への涙が音符に変わり、
メロディを作るほど救われた

− 新曲の『Requiem(レクイエム)』のティーザーを拝見しました。ツアーに向けて書いた曲ですか?
曲のモチーフ自体はちょっと前からあったのですが、昨年5月に母を亡くして、自分でも思ってもみないくらい涙が止まらない日々が続きました。テレビもライブもキャンセルせざるをえず、お医者さんにも相談したのですが、涙を止める処方箋は無いと言われました。でも、泣きながらでもステージに立てばファンは分かってくれるはずだと言われ、それで少し前向きになれました。曲を作り始めたらまるで涙が音符に変わっていくようで、メロディを作れば作るほど自分が救われていく気がして、また創作意欲が湧いてきたんです。『Requiem(レクイエム)』はそうして出来たメインの曲です。世界ツアーには不安もありますが、母に頑張っている自分を見せたいという気持ちでいます。

− X Japanとクラシックのコンサートでお母様の反応は違いましたか?
僕は4歳の時からピアノを弾いていて、音大受験間近にロックスターになる!と宣言したら、母は「あなた何を言っているの?」という感じでした。でも実際に成功して東京ドームに来てくれた時には「本当にそうなったのねぇ」と不思議がっていました。僕が海外にも出るようになって気付いたのは、母はいつも「ちゃんとごはん食べた?」、「風邪ひかないように暖かいもの着なさい」、「人前でゆっくり喋りなさい」と、僕が10歳の頃と言うことが変わらなかった(笑)。僕が何をやっても何を成し遂げても「あ、そうなのね」と、自分の子供が健康であればいいという感じでしたね。ここ数年、僕は世界を獲ることに自分の人生をシフトしてしまって、母との時間も含めてプライベートな時間が皆無で、世界を獲って母に捧げたいという想いが叶う前に母が亡くなってしまいました。

− そういう意味では『Requiem(レクイエム)』が初めてお母様に捧げた曲ですか?
そうですね。何曲か最初からクラシックみたいな感じで作ろうと思った曲があって、X Japanのオープニングで使っていた『Amethyst(アメシスト)』とか、サラ・ブライトマンの『Miracle(ミラクル)』。『Endless Rain』や『Tears』はハードロックとして作ってからクラシックバージョンを演奏しようと。『Requiem(レクイエム)』は最初からクラシックとして考えている曲です。

 

Photo credit: YOSHIKI


オーケストラの譜面も
ほぼ自分で作成

歌詞のある曲と楽器だけの曲ではアプローチが変わりますか?
僕はメロディが雨のように降ってくるんです。普遍的なメロディであれば、自分の中では歌詞の有り無しはあまり関係が無いですね。後から歌詞を載せるかどうかを考えるくらいで、『Requiem(レクイエム)』も将来的には歌詞を載せても良いかもしれません。

− YOSHIKI さんはロックでもしっかり譜面を作るそうですが、オーケストラの譜面もご自分で?
曲にもよりますが、最近の曲は99%が僕ですね。四重奏や六重奏まで自分で作って、そこから金管や木管に直して。過去のアルバムで色んな編曲家の方に素晴らしいアレンジをしていただきましたが、やはり自分が思うクラシックはこういうものだというのを自分で伝えたいと考えて、オーケストレーションもたくさん学んで今ではほぼ全部自分でやっています。『Requiem(レクイエム)』も今はピアノだけですが、コンサートに向けてピアノ協奏曲のようになってオーケストラが加わると思います。

− YOSHIKI さんは普段はどんな音楽を聴いていますか?
スタジオにこもりきりなので移動中だけですが、幅広く聴きますよ。ラフマニノフのピアノ協奏曲は本当に美しいと思いますし、今回のコンサートでちょっとだけでもやってみようかなと思ったり。手は痛くなるんですけど、好きでスタジオではよく弾いているんです。EDMやHip-Hopもよく聴きます。英語でHook(フック)と呼ばれるキャッチーなフレーズの生み出し方が素晴らしくて、メロディに限らずリズム感やモチーフになっている素材に興味を惹かれます。音楽はある種センスだと思うので、色んなジャンルから学ぶことがあると思います。

 

Photo credit: YOSHIKI


いつも挫折寸前までいっては、
また頑張ってきた

− デイリーサンは異国で頑張る日本人を応援して、このたび創刊20周年を迎えます。YOSHIKIさんからも、ぜひ読者へ応援メッセージを。
僕は30年近くLAにいますが、大変なこともあったし、正直に言ってすべてが順調というわけじゃありません。最初は英語も喋れなかったし、今でも日々勉強です。いつも挫折寸前までいっては、また頑張ろうという繰り返しです。日本人として僕の音楽が通用するか試したくて、もしダメだと思ったら日本に帰ろうと思いながら、少しずつですけど前に進んでいます。今回のツアーでクラシックの大ホールで公演するのもかなりの挑戦ですが、ここで諦めてしまったら母もきっとがっかりするだろうと思って進んでいます。コンサートに足を運んでいただいて、みなさんと同じように海外で日々苦労している僕の一生懸命な姿を見てもらって、少しでも心の支えにしていただいて、挑戦する姿、そして愛の連鎖を広げたいというメッセージを受け取ってもらえたら嬉しいです。

取材・文:合屋正虎

 

Photo credit: YOSHIKI

YOSHIKI

作詞家、作曲家「X JAPAN」「THE LAST ROCKSTARS」リーダーとしてピアノ、ドラムを担当。ゴールデングローブ賞の公式テーマソングを手掛けるなど、世界を舞台に活躍。2014年にはX JAPANとしてニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン公演を成功させた。17年1月にはカーネギーホール公演(ソロ)、3月にはロンドンのウェンブリーアリーナでの公演(X JAPAN)を行った。