連載1079 活気づく「嫌中言論」 中国経済の大失速をそんなに喜んでいいのか?(中1)

連載1079 活気づく「嫌中言論」
中国経済の大失速をそんなに喜んでいいのか?(中1)

(この記事の初出は2023年8月29日)

 

今度こそ本当にバブルは崩壊するのか?

 さて、ここからは「ざまあみろ!中国」の原因、中国経済の大失速を検証し、今後どうなるのか見ていきたい。
 まず、今回こそバブルの崩壊はホンモノかどうかだが、これはもうホンモノだろう。欧米各紙も「China’s Great Slowdown」(中国経済の大失速)と言っており、いまや直地点がまったく見えない状況だ。
 なにしろ、これまで発表された中国の経済統計は、すべて失速を裏付けている。いくら政府が脚色していようと、マイナスをプラスとは言えないから、中国経済は本当に負のサイクルに入った。20%を超えるとされる若者の失業率の発表を、「一時的に停止」してしまったのだから、この失速は深刻だ。
 今年の初めから春先にかけては、ゼロコロナ政策の解除を受けて、経済活動は一時的に回復した。しかし、4月以降は完全に失速した。
 毎月の景気動向を示す代表的な指標である製造業PMIは、1月:50.1、2月:52.6、3月:51.9と、好不調の境目である50を超えていたが、4月以降は50を割り続けている。4月:49.2、5月:48.8、6月」49.0、7月:49.3と、まったく不調だ。

「日本の失われた30年」と同じ道を歩む

 いまや、北京や上海から聞こえてくるのは、暗い話ばかりになった。消費が落ち込み、モノが売れない。日本が陥ったデフレ不況のような状況になっている。
 コロナ禍の最中に、寝そべるという意味の「躺平」が流行語になった。そして「寝そべり族」が登場した。この寝そべり族は、まったくなにもせず、モノを買わない。将来が不安でなにもやる気が起きず、車もマンションも買わず、結婚もせず、ただ寝そべっているだけと言うのだ。
 中国人は日本人と同じく貯蓄が好きで、将来のための貯金に励む。中国には、株と不動産ぐらいしか投資先がない。このどちらも昨年来、下落を続けているのだから、中国人はますます貯金をするようになった。中国の銀行の貯蓄預金は、今年の4月末時点で109兆2000億元(約2090兆円)に膨らみ、1月〜4月に7%も増加した。
 貯蓄が増えると言うことは、社会におカネが回らないということだから、経済失速は加速する。
 この状況に、8月4日の上海発ロイターは、「中国の消費者や企業は何兆元もの長期預金を銀行に預けている。膨大な資金が流通しないことで、1990年代に日本経済を停滞させた“流動性のわな”に陥る危険性が高まっている」と報道した。
 現在、中国のネットでは、「中国も日本の『失われた30年』と同じ道むのか」という議論が盛んだ。中国は日本のバブル崩壊から学んでいると言われてきたが、なにも学んでいなかったようだ。

(つづく)

この続きは9月20日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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