連載1097 1年後に迫った米大統領選:トランプ復権が“悪夢”となるこれだけの理由(下)

連載1097 1年後に迫った米大統領選:トランプ復権が“悪夢”となるこれだけの理由(下)

(この記事の初出は2023年9月19日)

 

民主主義、基本的人権、政治体制、頭になし

 バイデン政権に限らず、アメリカの歴代政権は、民主主義、基本的人権を政治の大原則として、同盟国および民主国家を支援してきた。そうして、「パクスアメリカーナ」(Pax Americana)の世界を維持してきた。
 しかし、トランプはそんなことにはおかまいなしである。現在、西側と中ロはかつての冷戦時代と同じ「新冷戦」状態にあるが、トランプの頭の中には「民主陣営vs専制陣営」などという構図はない。まして、いま台頭中の「グローバルサウス」など、ただの途上国の集まり程度にしか思っていない。
 トランプにとっては、政治体制などどうでもいいのである。したがって、中国敵視政策を強めるためには、ロシアとも手を組むだろう。実際、トランプ前政権は当初、親ロシアの姿勢を取っていた。しかも、トランプはプーチンを「才能ある傑出した人物」「天才」「抜け目のない男だ」と高く評価してきた。
 ディールのためには、口から出まかせを言うトランプだが、なぜか、プーチンの評価は今日まで変えていない。
 そこで、懸念されるのが、ウクライナ戦争だ。

直ちに停戦し、ウクライナを支援しない

 トランプはこれまで、「大統領選に勝利すればウクライナでの戦争を終わらせ、ロシアとの対立に終止符を打つ」と繰り返し述べてきた。また、「私が大統領なら、24時間以内にウクライナ戦争を終わらせる」とも発言した。さらに、バイデン政権のウクライナ援助政策を厳しく批判し、「大統領になったらウクライナ支援を停止する」とも言ってきた。
 こうした発言に、もちろん、欧州諸国は戦々恐々としている。なぜなら、トランプは前政権のときに、NATOの再編を言い出し、NATO加盟国に軍事費の増額を要求したからだ。その際、場合によっては、アメリカのNATO離脱もありえると欧州諸国を脅した。当時のメルケル独首相に対しては、ドイツからアメリカ軍を引き上げるとまで言ったことがあった。
 もちろん、トランプのこの姿勢はアメリカの世界覇権を崩壊させるものだから、ワシントンDCの高官の誰もが反対した。
 そうして、多くの高官がトランプに愛想をつかして辞めるか、あるいはトランプによって解任されていった。国防長官ジェームズ・マティス、国務長官レックス・ティラーソン、国務長官マイク・ポンペオと、みなトランプに呆れて政権を去ったと言っていい。
 なにしろ、トランプはディープステートと戦っており(そう自分では公言している)、国防省、国務省、CIAなどの情報機関はディープステートの“本丸”だからだ。トランプはSNSへの投稿で、「グローバリストのネオコン体制を打倒する」と繰り返し述べている。
 ウクライナ戦争は、彼らが引き起こした「必要のない戦争」というのである。


(つづく)

この続きは10月17日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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