海外子女教育振興財団 理事長 綿引宏行さん 日本のグローバル化と海外子女教育

 

海外子女教育振興財団
理事長 綿引宏行さん

 

日本のグローバル化と海外子女教育

 

海外子女教育振興財団
理事長 綿引宏行さん

 

Q1. 日本のグローバル化・グローバル人材の必要性がさけばれて久しいですが、そのような中で海外子女教育振興財団理事長として、海外子女教育を今後どのように変化・進化させていきたいとお考えでしょうか?

2040年を見据えた国の在り方として、私は、これからの日本のグローバル化というのは「日本人だけが『日本人』ではない社会」というものを想定しています。人口減少等で日本の成長基盤が失われてゆくなかで、日本を想い日本を支えて、日本のよさを理解して世界各地で活躍する人材、国籍と人種を超えた「日本人」を、これからの時代の「日本人」と定義したいと思います。そういう存在が皆で安心安全で生活してゆける、成長を牽引できる、それが日本のグローバル化であるといえるでしょう。

そのために海外子女教育の進化形としての学校、この学校は従来の在外教育施設だけではなく、海外子女が学ぶ現地校自体と、国内校をつなげて相互に学びあいつながり続けてゆく学びの場になっていけたらと夢をふくらませています。このような海外子女教育に進化させていければ、国籍と人種を超えた日本人社会が大きく構成できるのではないでしょうか。

国内校は受入校でもあり、国籍を超えた子供の受入校でもある、これが、これからの時代の本当の意味の国際理解教育になるものと考えています。帰国子女受入校を国際理解教育校というような概念に変えてゆくことができれば、「内なるグローバル化」は一層進むと考えます。

そのように学校間をつなげることによって、学校で働く教員は一層進化し、在外で教える教員は、その進化の中で成長して、国内に戻って国内で,国籍と人種を超えた日本人社会をリードすることができるようになります。このように変化・進化することのお手伝いができたらと考えています。

そして、こうした変化に呼応するものとして、「Beyond School構想」というものを現在考えています。従来の「学校」のイメージから進化させ、自由な発想で学びの場を再定義するものです。そのために、次のようなストーリーも用意しています。

(1) 子供だけでなく大人も、また日本人だけでなく現地の方々も学びあえる在外教育施設
(2)50年先も豊かな学びと交流の場として世界に発信する在外教育施設
(3)教育も含めた日本文化、現地文化が融合、協働し、新しい文化を生み出して新たな伝統をつなぎ、未来を創り出す在外教育施設
(4)新たな「知」の協創拠点としての在外教育施設


以上の諸点を目指すことにより、在外教育施設がより安心安全で、グローバルな議論が繰り広げられ、広く地域に溶け込んでいく学びの場と進化する姿を想定してゆきたいと考えます。このような在外教育施設に派遣された教員は、真の国際理解教育を修得し、帰国後には包摂的な日本社会をリードする教員として内なるグローバル化を牽引してくれることを確信しています。

もうひとつ、いま申し上げた構想の中に日本語教育事業を埋め込んでいくイメージも大切かと思います。このことにつき大変参考になる事例がすでにあります。1977年設立の日本メキシコ学院と、1992年設立の西大和学園カリフォルニア校の事例は、上述の構想の一つのモデル候補かと考える次第です

 

Q2. 日本のグローバル化の必要性において、海外教育を経て、日本に戻って来られる帰国子女たちには、どのような点・役割を期待されておられるのでしょうか?

私もNYに駐在し、NY、NJの日本人学校を応援してきました。NY、NJが持つ3つのスピリッツ(1つ目はオプテミスティックoptimistic 2つ目はプラクティカルpractical、3つ目はプロブレムソルビングproblem-solving)、日本に戻ってからもこの3つのスピリッツを大切にして、縦横に活躍してほしいと願います。

NY、NJで経験を積んだ子供たちには、「日本人の心でアメリカを語ってもらいたい。同時にアメリカ人の視点で日本を見て日本の課題の解決にあたってほしい」、そう願います。それが、日本が世界に貢献するという役割を果たすために大変重要なことであり、皆さんに期待されていることと考えます。

 

Q3. グローバル人材が育たない要因の一つとして、海外子女の国内受け入れ体制がまだまだ限定的(例えば、海外子女を受け入れられる学校が少ない、地域差が大きい、海外と日本との勉強・入試に対する捉え方の差)という点も挙げられるかと思いますが、今後海外から帰国子女を受け入れる学校側には、どのような変化を期待されていますか? 特に、海外でのどのような経験・体験をより評価してほしいとお考えでしょうか?

これからの時代、国籍と人種を超えた日本社会を希求するという時代は、日本人が国際社会で活躍するにあたって、自分が何を考えて、また何をしてきたかということがより問われることになります。

自分の考えをわかりやすく相手に伝えること、それにはすべてに責任を持ってやり遂げる実践力が必須。総合的な人間力や社会問題への関心、といったことを培ってきている帰国子女に対しては、その経験や考え方に焦点を当てた帰国子女教育を、受入校には実践していただきたいと願っています。

同時に、そうした意識をもって、海外滞在中ならではの経験、体験を子供たちが自らの意思で取り組んで、積んできてほしい、そのように願っています。

 

Q4. 一方で、海外日本人学校・補習授業校には、最近現地の永住組の方々のお子さんたちも増えてきていますが、そのようなお子さんには、日本人学校・補習授業校教育を通じて、どのように成長してほしいとお考えでしょうか?

永住者の子供たちというのは、アメリカ社会に身を置く者ならではの、日米という複数の思考回路を持つ有為な存在です。普通の子供は単一の思考回路で考えがちですが、永住者の子供たちは複数の視点を持っていて状況に応じて視点を変えることができます。つまり、お互いの立場を理解して解決に向けた本質が見える。そのような人材になることができると信じています。

私の好きな言葉に、ハンニバルの「視点を変えれば不可能が可能になる」というものがあります。世界の課題解決に向けて、複数の思考回路、視点をもって貢献できる、それが永住者の子供たちです。いずれ帰国する子どもたちにとっても、永住者の子供たちとの固い絆を大切に、いつまでも学び合える存在であってほしいと願います。

 

 

Q5. 日本人学校・補習授業校で教育を受けた子供たちには、今後10年、20年先を考えた際に、どのような大人になってほしい、どのような形で社会に貢献してほしいとお考えでしょうか?

私たちには夢があります。それは、近い将来、日本人初の国連事務総長が誕生することです。その最有力候補が、異国の地に学ぶ子供たち、日本人学校、補習授業校で教育を受けた子供たちです。

現在小学校6年生の30年後は42歳、まさに国連事務総長の候補そのものです。自ら考え、発信し、行動する力を蓄え、本当の世界平和、真の地域の安穏に貢献できる大人になってほしい、第一級の人材になってほしいと思っています。

ロシアの元大統領ゴルバチョフはこういう趣旨の発言を残しています。「平和とは、似た者同士が団結することではなくて、異なった者同士が違いを認め合って団結すること」。まさに、10年後20年後の国際社会の平和というのは、違った考えの者同士が違いを認め、違いを乗り越えて団結することが肝心となります。その中心となるのが、国連事務総長です。この国連事務総長が持つ資質は、日本人学校、補習授業校で複数の視点を持った子供たちが習得したものであり、彼ら彼女らこそが、まさにこの役割を担える最有力候補だと考えています。

もう一つの夢は、もう少し先の話になります。2050年、今の小学6年生の皆さんは、まさに家族を抱えて社会の中核的な存在になっています。その2050年には豊かさの考え方も変わっているでしょう。精神的な豊かさを求める傾向も高まって、価値観も想像を超えて多様化しているかと思います。

そのような変化の中で、相手を豊かにする、それが自分の豊かさになる。そういった信念を持ってイノベーションを生み出してゆける、そんな人材がこの日本から続々と誕生してゆくことを夢見ています。未来には、そのような人材が必ず求められる。その期待を皆さんに背負ってほしいと願わずにはいられません。

 

Q6. 海外の日本人学校・補習授業校運営にあたっては、保護者のサポートが日本での教育以上に求められますが、がんばっている保護者の皆さんにも一言お願いします。

ボランティアの語源は、ラテン語のvoluntas(ウォランタス)、つまり自由意志ということです。皆さんがお住いの米国は、重要な公共の利益のために心を込めて犠牲を払う。誠意をもってお互いに助け合うということを歴史的に続けてきた国です。それは、自分の時間と能力を惜しみなく提供するという文化です。

差し迫ったニーズがあることを見て取って、自ら進んでニーズを満たす責務を果たすという伝統のある米国社会の中で、保護者の無私のサポートによって日本人学校、補習授業校の運営が続けられていると思います。よって子供たちが日々差し迫ったニーズを持っているからこそ、そこに保護者の方々が支援の手を差し伸べる。それは子供たちのためでもあり、別の見方をすると、子供たちのために貢献することが、保護者の皆さんの更なる成長にもつながる場となる、是非ともそうであってほしいと願っています。

そして、その保護者の方々のそうしたスピリッツと、その姿勢を子供たちに背中で見せることが、子供たちの将来の価値観の形成に大きく寄与すると思います。

保護者の皆様、引き続きよろしくお願い申し上げます。

 

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