アートのパワー 第24回 ジェフ・ロスタイン(Jeff Rothstein)、 東ヨーロッパ系(3世)アメリカ人。 ブルックリン生まれのストリート・フォトグラファー(下)

アートのパワー 第24回
ジェフ・ロスタイン(Jeff Rothstein)、 東ヨーロッパ系(3世)アメリカ人。 ブルックリン生まれのストリート・フォトグラファー(下)

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ジェフの写真で印象的なのは、彼の温かい思慮深さを反映した、思いやりのあるヒューマニティ(人間性)だ。見る人を、混沌とした劇場の真ん中で、彼と一緒に路上にいるような気分にさせる。ストリート写真を19世紀のフランスのフラヌール(怠け者)と比べる人がいるが、ジェフはただブラブラと通りを散歩しているわけではない。いつも注意深く、あちこちに目を光らせ、次のシャッターチャンスを求めている。ジェフは自分を「都市観察者(urban observer) と呼びたい」と言う。「私の写真を見てくれた人に、私が大好きなニューヨークのストリートのスピリットやエネルギーを感じて欲しいんだ」。  

彼が使用するカメラについて聞くと、「機材はそれほど大きな問題ではないと思っている。本当に重要なのは、写真家のヴィジョン」という返事だった。ジェフのヴィジョンは「今も昔もほとんど変わっていない。ニューヨークのクレイジーさとドラマを捉えること」。一瞬のうちに消えてしまう行動や仕草の記録を残そうとしているのだ。  

「私はこの街の変化を見てきた。昔に比べると住む上では安全になったと言えるが、70年代、80年代、90年代にあった厳しさや個性はかなり失われてしまった。どのブロックにも同じCVSや銀行、スターバックスがある。昔ながらの商店はほとんどなくなってしまった。とはいえ、文化、古い建築物、人々の多様性があるので、ストリートを歩くのはいつでもエクサイティングだ」。  

ジェフが最近参加した展示会は、クロアチアのポレチュ美術館(個展)、イタリアのトリエステ・フォト・フリンジ画廊(グループ展)、B&Wアテネ写真祭(グループ展)、フランスのイメージネーション・パリス(グループ展)などで、大半は「なぜか、アメリカ国外」だった。海外を拠点とするオンライン・印刷出版物でも、彼の作品の特集が組まれている。ニューヨークのストリート写真は、特に70年代や80年代のヴィンテージ写真が国際的に人気があるようで、ニューヨークを訪れたことがなくても、写真を通してニューヨークを疑似体験できるからだそうだ。ジェフの写真は長年にわたり、ロンドン・イブニング・スタンダード、デイリー・メール、ハーレツ・シルバーグレイン・クラシックス(Haaretz, Silvergrain Classics)、ロイユ・ドゥ・ラ・フォトグラフィ( L’oeil de la Photographie)等、様々な出版物に掲載されている。

 

(Graffiti and Fire Escape) 2022 / Photographs used with permission
(Balloons) 2020 / Photographs used with permission

2017年6月に『Today’s Special: New York Images 1969-2006』がコーラル・プレス・アーツ社から出版され、以下を含む多くの大学図書館や公共図書館に収録さている:国際写真センター、ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館、ニューヨーク歴史協会、ニューヨーク公共図書館、ミリアム&アイラ・D・ウォラック芸術・版画・写真部門。  

次の写真集のための編集、選んだ写真の順番を決めたところで、今は出版社を探しているところだ。最初の写真集と同期間(1969~2006年)のニューヨークをカバーする予定だが、写真の点数は前回の倍になる。「より多くの写真集を作ることと、作品を展示し続けること」を目標としている。  

コロナ禍のロックダウン中、ジェフは人を被写体にしたストリート写真を撮ることができず、もっぱらカラーで都会の静物や抽象画を撮影した。彼の研ぎ澄まされた目と瞬間を捉える能力は、それまでほとんどがモノクロ写真だった彼の中で、新たな展開を見せている。

 ジェフ・ロースタインのホームページ(https://www.jeffrothsteinphotos.com/)では、長年にわたって撮影された写真の宝庫を見ることができる。写真はすべて異なるサイズで入手可能。ホリデーギフト、又はニューヨークを愛するすべての人へのプレゼントに最適だと思う。  ユダヤ移民の歴史をより深く知りたい人には、ロウアーイーストサイドにあるテネメント博物館(Tenement Museum、https://www.tenement.org/)のガイド(docent)付きツアーを薦めたい。ジェフは、その近くにあるシナゴーグの美術館(Eldridge Street Synogogue、https://www.eldridgestreet.org/)がとても美しく、お薦めだとのこと。

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文/ 中里 スミ(なかざと・すみ)

アクセアサリー・アーティト。アメリカ生活50年、マンハッタン在住歴37年。東京生まれ、ウェストチェスター育ち。カーネギ・メロン大学美術部入学、英文学部卒業、ピッツバーグ大学大学院東洋学部。 業界を問わず同時通訳と翻訳。現代美術に強い関心をもつ。2012年ビーズ・アクセサリー・スタジオ、TOPPI(突飛)NYCを創立。人類とビーズの歴史は絵画よりも遥かに長い。素材、技術、文化、貿易等によって変化して来たビーズの表現の可能性に注目。ビーズ・アクセサリーの作品を独自の文法と語彙をもつ視覚的言語と思い制作している。

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