連載1129 追い込まれた海洋国家ニッポン 負けられない「日中韓造船ウォーズ」 (下)

連載1129 追い込まれた海洋国家ニッポン
負けられない「日中韓造船ウォーズ」 (下)

(この記事の初出は2023年11月14日)

重機業界ランキング1位はやはり三菱重工

このように、3強からすべり落ちようとしている日本の造船業界だが、以下に、造船を含めた造船重機業界のランキング(売上高)を示すと、次のようになっている。

【造船重機業界 売上高ランキング(2021-2022年)】
1位:三菱重工業(3兆8602億円)
2位:川崎重工業(1兆5008億円)
3位:IH(1兆1729億円)
4位:住友重機械工業(9439億円)
5位:三井E&S HD(5793億円)
6位:日立造船(4417億円)
7位:今治造船(3652億円)
8位:ジャパンマリンユナイテッド(JMU)(2133億円)
9位:大島造船所(1095億円)
10位:新来島ドック(886億円)

ピークから6割ダウンした造船業の現状

 世界の造船のピークは2011年。この年から、新造船竣工量は減少を続けている。当時、約1億トンあった新造船竣工量は、2022年ではその6割弱の5560万トンまで減少した。
 つまり、造船メーカーの建造能力と需要との間に約4500万トンのギャップが存在しているわけで、当然、価格競争、コストカット競争などが激化し、そのなかで生き残りをかけたが合従連衡が起こってきた。
 日本でその先駆けとなったのは、前記した2013年のJMUの誕生だ。日本鋼管(現JFEホールディングス)と日立造船の造船事業を統合したユニバーサル造船、IHIグループのアイ・エイチ・アイマリンユナイテッド(IHIMU)が統合した会社である。JUMは、2021年には今治造船と業務提携した。
一方、強力な造船部門を持つ三菱重工業は、2018年、船舶事業を再編し、フェリー、貨客船、巡視船などの設計、製造、修理事業を三菱造船に移管した。また、三井E&Sホールディングスは、艦艇事業を2021年に三菱重工に譲渡し、商船建造については常石造船と業務提携してそちらに任せ、自身は新造船事業から撤退した。
 前記した私の知人の海運・造船業界の人間は、こう解説する。
「日本の造船業はそれなりの技術力、製造力を維持しているのですが、安価で大量に製造できる中国勢と、同じように大量製造でき、それに技術力も伴っている韓国勢に遅れをとっている状況です。日本でも合従連衡が進んできましたが、市場の状況を見ると、圧倒的なシェアを確保した中韓には投資競争でかないません。
 民間の投資はもう限界にきていて、政府がなんらかの援助をしないと、この業界はほかの業界同様、敗戦を喫するかもしれません」

日本も脱炭素化ロードマップを策定

 このように厳しい市場状況のなかで起こったのが、地球温暖化対策としての「脱炭素」が船にも及んだことだ。 
 船の燃料は、主に重油である。重油を燃やせば大量のGHG(温室効果ガス)やSOx(硫黄酸化物)が発生する。これをなんとかしなければと、前述したように、IMO(国際海事機関)は「2050年カーボンニュートラル」の目標を設定し、GHGやSOxに対する規制を設定した。
 したがって、現在、海運業者は燃料を重油から基準を満たすLNGに変更した船舶への買い替えを行い、造船業者は燃費のよいLNG船を建造しつつ、ゼロエミション船の開発に注力している。
 IMO の目標設定を受けて、2020年3月、国土交通省は「国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップ」を策定した。
 また、2023年1月からは、海洋汚染防止条約に基づき、既存船の燃費性能を事前に検査・認証するとともに、毎年の燃費実績を事後チェックする制度が開始された。
 ロードマップのプロセスは、まずは、LNG船の導入、続いて、燃料を水素とアンモニアに転換したゼロエミション船の開発・建造・導入である。この導入時期は、2030年ごろが想定されている。

(つづく)

 

この続きは12月14日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

タグ :