全米で盛り上がった「BLM」運動で沈静化
ディズニーでは、実写版『リトル・マーメイド』でも、ジョージア州出身の黒人R&Bシンガーのハリー・ベイリー(23)を起用している。このときも、物議を醸したが、興行的には成功している。そのため、ためらいなくレイチェル・ゼグラーがキャスティングされたのだが、今回はそうはいかなかった。
ラティーノであるレイチェル・ゼグラーがキャスティングされたときは、「BLM」(Black Lives Matter)運動が盛り上がっているときでもあった。2020年5月に黒人男性のジョージ・フロイドが白人警官によって殺害された事件は、その後、全米で「BLM」運動を巻き起こした。民主党のバイデン政権はこの運動を支持し、「DEI」(ディー・イー・アイ:Diversity、Equity、Inclusion)を推し進めた。
したがって、「白雪姫が白い肌でないなんておかしい」と言う批判は、すぐに沈静化した。しかし、いま思えば、それは表面だけのこと。人々の意識は「ポリコレは行き過ぎ」「反ウォーク」にあったのは間違いない。
トランプは、その潜在する声に訴えて再選されたのだ。
ゼグラーは原作を「変よ!」「そうしない」と
『白雪姫』に対する物議は、キャスティング問題だけに止まらなかった。そして、その多くはレイチェル・ゼグラーの発言に端を発していた。
2022年9月、彼女はインタビューで、毒林檎を食べて眠り続ける白雪姫にキスをしたプリンスを「ストーカー」と呼んだ。そして、息を吹き返した白雪姫が一目でプリンスと恋に落ちることを「変よ!」とし、「今回、私たちはそうしない」と言ったのだ。この発言は、原作へのリスペクトが足りないと批判された。
2023年10月、ゼグラーはSNSでイスラエルのガザ攻撃を非難し、パレスチナ支持を表明した。さらに2024年8月には、『白雪姫』のプレビューを見たファンに対しての感謝の投稿に、「どんなときでもパレスチナ解放を忘れないで」と付け加えた。
ハリウッドはユダヤ資本である。したがって、プロデューサーが「個人的なお願い」として投稿を削除するように要請したが、彼女は応じなかった。
そして、昨年11月の大統領選後に、DEIを否定するトランプを強く批判し、「トランプの支持者とトランプに投票した人、そしてトランプ自身に平穏が訪れることがありませんように」という“呪い”のメッセージを投稿した。
さすがに、これは度がすぎると批判され、「感情に流されてしまった」と、謝罪することになったが、『白雪姫』の前評判を落としたのは間違いなかった。
王子さまの代わりに山賊団のリーダーが登場
このような経緯があっても、映画のできが素晴らしければ、興行は成功する。しかし、私が見たかぎり、出来はひどいものだった。
なにがひどいと言うと、白雪姫と王子さま(プリンス)のラブストーリーのはずが、自立した女性としての白雪姫と邪悪の女王の対決ストーリーになっていることだ。プリンスは登場せず、白雪姫のキスの相手は、なんと山賊団のリーダーなのである。
山賊団のリーダーのジョナサンは、城内の食料庫を荒らしているところを白雪姫に発見されるが、白雪姫は彼を助けて逃がす。その日、邪悪の女王は鏡のお告げで、白雪姫を森に連れ出して、狩人に殺すように頼む。しかし、狩人は白雪姫を逃し、白雪姫は7人の小人に助けられる。
このように、ストーリーはいちおう原作と同じような展開だが、小人たちは原作ほどの出番がない。そのためか、人間ではなくCG。しかも、タイトルは本来の『白雪姫と7人の小人』(Snow White and Seven Dwarfs)ではなく、単に『白雪姫』とされたため、この点も批判された。
この続きは5月9日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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