一時帰国した。羽田空港に降りて、立て続けに2つ、大谷翔平選手を使った大型広告を見た。


確か、コーセーのUVジェル、そして、メンズウェア「ボス」で、髪をジェルで立たせ、スプリングコートを羽織っている垂れ幕ポスター。
街に出ると次から次へと彼のポスターが目につく。三菱UFJ銀行、コーセー、ファミリーマート。東急ストアの女性アパレルコーナーでは、「今ボクがあるのは、○○のおかげだ」という声のCMが繰り返し流れていた。
テレビを点けると、日清製粉のパスタ、伊藤園の「お〜いお茶」、興和のドリンク「シンクロンコーワ」のCMにも出ている。
「大谷だらけだ〜」と言うと、友人が「大谷ハラスメントというんだよ」と教えてくれた。昨年からある言葉で、遅まきながら学んだ。ハラスメントという言葉の正しい使い方かどうかは疑問だが、日本では報道や広告・宣伝が何かに集中すると「うざい」という意味でハラスメントを使うらしい。
私は大谷のファンだ。かつてヤンキースの松井秀喜選手を取材していたジャーナリストに話を聞いて、大谷のスゴさについて書いたこともある。彼が、将来や家族のために絶頂期に広告に出て、収入を増やすのは悪くないとも思う。企業が「大谷効果」に期待する気持ちもよく分かる。実際にコーセーは売上が上がったそうだ。
しかし、ここまで大谷一色、というのは妙な気がする。日本にはほかのヒーローは、ロールモデルはいないのか?
日本のメディアにも疑問を感じてきた。まずは真美子さんと結婚した時の扱い。「真美子さんは大学の恩師に結婚について相談していた」「真美子さんが○回目の観戦」「犬の散歩をしていた」―。どれもニュースに値しない。第1子が生まれた後も「ゆったり服でお出かけ」「大谷、妻へ気遣い」。スポーツ紙と週刊誌が中心だが、これも大谷ハラスメントだ。
米メディアはどうか。昨年3月、まず結婚してからドジャースが韓国遠征に行く際に、二人が並んだ写真を公開した。そこで、メディア各社が「大リーガー大谷が結婚」と報じた。1カ月後、「shohei ohtani mamiko tanaka」でニュース検索してみた。すると、ドジャースが写真を公開した3月以降の原稿はほぼ皆無だった。「観戦」「犬の散歩」はニュースではない。見事なものだ。
大谷が昨年、新居を購入した際、フジテレビが報じ、大谷が取材を拒否。港浩一社長(当時)が記者会見で謝罪した、というのも有名だ。日本のメディアは、ニュースではないプライベートな話を暴く傾向が強い。
ちなみに大谷は、拠点であるアメリカのCMにも出ている。しかし「ハラスメント」と思われるほどの現象は起きていない。(写真と文 津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。
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