京大発スタートアップの海外進出を、NYを拠点にサポート。

京都大学イノベーションキャピタル(株)執行役員兼京都大学成長戦略本部コミュニケーション戦略主幹。京都大学工学部高分子化学科卒業、筑波大学大学院経営政策科学研究科修了。化学メーカーの研究職を経て1997年4月、日経BP社に入社。日経ビジネスや日経ネットビジネスなどで編集記者として勤務。日経BPでの後半10年は日経バイオテク記者として数多くのバイオベンチャーを取材した。2016年4月、京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)に移籍し、投資部スタッフとして主に京大関連スタートアップの設立支援や投資業務に従事。これまでに12社に投資し2社がIPOしている。主な担当企業としては、クオリプス、エネコートテクノロジーズ、リジェネフロ、坂ノ途中、レストアビジョンなどがある。また、大学スタッフとしては海外拠点の拡充に力を入れており、京大シンガポールオフィスや京大シンガポールカンファレンスを責任者として立ち上げた。昨年8月に設置された京大NYCオフィスの活用にも取り組む。広島県広島市出身。
今回の訪問は7年ぶりとお聞きしましたが、ニューヨークの感想はいかがですか?
パンデミック前の2018年以来、久しぶりの訪問です。新婚旅行でニューヨークを旅程に入れるほど好きな街なのすが、今回の訪問で最も印象深かったのはやはり物価です。初めてニューヨークに来たのは1990年代後半。その頃、スタンドで売られていたホットドッグは2ドル(約200円)ほどだったと記憶しています。それが今は1000円をはるかに超える値段。MLBもNFLも数千円で観戦できたはずですが、とても手が出せないほど高価になりました。
今回の訪問の目的は?
京都大学成長戦略本部(京大において産学連携やスタートアップ育成などを担当する部門/IAC)および京都大学イノベーションキャピタル(ベンチャーキャピタルで京大の子会社/京都iCAP)の海外市場開拓担当スタッフとしての出張です。
IACおよび京都iCAPは現在、全力を挙げて海外拠点の整備を進めています。京大には海外大学との共同研究促進や留学生確保のための海外拠点はありましたが、産学連携のための拠点は最近までありませんでした。嚆矢となったのは23年に設置したシンガポールオフィスです。現地の方を駐在員として雇用するなど活発に活動しており、24年1月と25年1月には、「京大・京都iCAPシンガポールカンファレンス」を開催。今年のカンファレンスでは日本から17社のスタートアップに来てもらい、現地の投資家や事業会社と合計で125件の1on1ミーティングを実施しました。
京大が本格的に大学からのスタートアップ創出やその育成に取り組み始めたのは16年からです。この年、京都iCAPが京大発スタートアップへの投資を開始し、京大の研究者だけが応募できる起業を目的とした大型助成制度も始まりました。これらの支援からこれまでに200以上のスタートアップが誕生しています。
それから9年が経過し、中には成長ステージに到達し、海外での大型の資金調達や製品・サービスの海外市場への展開が必要なスタートアップが数多く出てきました。そこで、京大発スタートアップの海外進出をサポートするために、海外拠点の整備に乗り出しているのです。
今後のニューヨークも含めた京大の海外展開・活動についても教えてください。
シンガポールに続きニューヨークにも京大の拠点を設置したのは24年8月です。駐在員は、京大卒業生でこのデイリーサンNYの代表でもある武田秀俊さんに引き受けていただきました。シンガポールと同様に、今後はこの拠点を活用して京大や京大発スタートアップの存在感を高めるための活動を行っていきます。
まず狙っているのは、毎年9月中旬にニューヨークで開催されている「Climate Week」。期間中、Climate Techに関する数百のイベントが催され、世界中から投資家や関連企業が集まってくると聞いています。早速、今年の「Climate Week」に京大・京都iCAPとして何か出展することを検討しています。
また、ライフサイエンス系スタートアップが集積しているボストンにも拠点を設置することを考えています。というのも、京大発スタートアップの約半分はライフサイエンスやヘルスケア関連だからです。京大の発明であるiPS細胞の実用化に取り組むスタートップも含まれています。
最後にニューヨークで活躍する日本人へメッセージをお願いします。
今回、ニューヨークを訪問するまで、ニューヨークとスタートアップとの関係をあまり理解していませんでした。スタートアップというと、シリコンバレーやボストンという先入観があったからです。しかし、現地のVCやインキュベーション施設を訪問し話を聞いていくうちに、ニューヨークにおけるスタートアップ・エコシステムが相当に発達していることに気がつきました。特に海軍工場を改築して建設されたNewlabには感銘を受けました。これほど巨大なインキュベーション施設を経験するのは初めてだったからです。また、起業をメンターサービスや投資で支援してくれるアクセラレーターがニューヨークにはいくつも存在しています。事業提携の候補となる大手企業も、当然ながら多くがニューヨークに拠点も構えています。
この出張でお会いした日本人の中には、アメリカでの起業を目指している方もいました。シリコンバレーやボストンだけでなく、ニューヨークで起業する日本人がもっと増えればいいと感じています。そこに京大の研究成果が関与できれば最高です。

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