2025年6月13日 COLUMN 津山恵子のニューヨーク・リポート

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.57 噂で始まったLAデモ 放火、強盗は一部の犯行

「すべてを台無しにしたのは、警察だ」

ロサンゼルスに滞在中の友人lbkが連絡してきた。彼女は8日、ロサンゼルス市民がフリーウェイに集まり、平和的にデモをしているのを見た。

平和的デモにフルギアの警官が派遣された(8日、ロサンゼルス Photo: lbk)

「ベビーカーもいくつか見たし、犬を連れてきている人もいた」

とlbk 。その市民を突然囲んだのが、ガスマスク、防弾チョッキ、マシンガンとフル装備の警官隊だったという。市民を攻撃する催涙ガスを想定したガスマスクは、ニューヨークでも見たこともない。その後、催涙ガス、ゴム弾、スタン・グルネード(閃光手榴弾)を使ったデモへの攻撃が始まった。

「スタン・グルネードは、大音響と光で全身がガクガクするような衝撃がある。市民に使うなんて、クレイジー」(lbk)

デモが始まったのは、不法移民を強制送還するための移民税関取締局(ICE)の摘発がきっかけだったという。

英BBCによると、そもそも抗議デモは6日、平和的に始まった。人々はまず、いつものようにロサンゼルスのフリーウェイ101号線を封鎖した。警察が排除に乗り出し、あっけなく封鎖は終わった。以前のデモでは、デモ隊に対し警察側が理解を示したのか封鎖した人垣を見守る姿が見られたほどだ。しかし、事態は8日、急速に悪化した。

8日には、地域で「ホーム・デポで日雇い労働者が摘発・逮捕された」という噂が出回った(BBC)。店内での摘発ではない。実は、郊外にある巨大な日曜大工ホームセンターの駐車場には、不法滞在の移民が集まることがある。なぜなら、買い物を済ませた富裕層が、屋根の修理、ペンキ塗り、庭の芝刈りを安い賃金で済ませてくれる不法移民をその場で車に乗せて自宅に連れていくためだ。大きな屋敷で複数の仕事がある場合、ピックアップトラックで何人かの不法移民を連れていくことさえある。

「ホーム・デポで日雇い労働者が摘発・逮捕された」という噂は、駐車場でICEが不法移民を一網打尽に襲ったイメージを地域の人々に与えた。デモの規模が大きくなった。

テレビなどでは、炎を上げる車やアップルストアを襲う暴徒の映像が繰り返し流れる。しかし、彼らは「ごく一部。デモに便乗した悪い奴らは必ずいる」と、フォトグラファーのマーク・エドワード・ハリス氏。ロサンゼルス在住で、過去のデモでも一定数の暴徒が現れるのを見てきたという。

問題は、トランプ大統領の過剰反応だ。州兵を派遣し、「彼ら(デモの参加者)は動物だ」と発言。海兵隊まで現地入りさせた。市民に正規の軍隊が武器を使うとなれば、まさに「内戦」だ。治安を守るための警察や軍隊を大統領が市民に対して使おうとしている事実は、見過ごしてはならない。

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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