NY・ブロードウェイの「ウィキッド」で働く日本人、横尾沙織さんがこの舞台を選ぶ理由「好きな事に関わりながら仕事ができる」

ブロードウェイミュージカル「ウィキッド(Wicked)」のステージマネージャーとして活躍する横尾沙織さん
「オズの魔法使い」のもう一つの物語、2人の魔女の知られざる友情を描いたミュージカル「ウィキッド(Wicked)」。初演から22周年を迎え、2024年には映画化も行われたばかり。そんな普及の名作として、新たなフェーズに入ったばかりの同ミュージカルで、日本人のステージマネージャーが活躍していることをご存知だろうか?

2021年9月から「ウィキッド」に携わる横尾沙織さん。今回はそんな彼女に、”本当にこの仕事が好き” という情熱から、同作はなぜここまで愛され、特別な作品になったのかなど・・・たっぷりと語ってもらった。

◆ 日本からブロードウェイの世界へ
もともと宝塚歌劇団や東宝の舞台が好きだった沙織さん。その中でも演者ではなく「創り出すこと」に興味のあった彼女は、高校の時にはミュージカル部に所属。「部活の卒業時に最後、好きな演目を選べるんですね。普通なら『赤毛のアン』や『アニー』を選ぶところ、私達は『ウィキッド』を選んで演出を手がけました。当時まだ劇団四季でも上演されてなかった時ですね。その頃から、将来は舞台に関係する仕事がしたいと思っていました」

そして日本の高校を卒業後、本格的に舞台芸術を学ぶためにアメリカへ渡り、今の天職である「ステージマネージャー」に出会う。ちなみにステージマネージャーとは日本語で言う「舞台監督」だが、業務内容は少し異なっており、日本の舞台監督は照明や音響、大道具などの技術面での総括を担うことが多い反面、アメリカのステージマネージャーは、稽古から本番の制作進行や運営管理を行い、キャストやスタッフたちとも連携を図り「作品のクオリティを維持する役割」となっている。

大学在学中、そんなステージマネージャーとして経験を積んでいると、2013年に「ウィキッド」のインターンのチャンスがやってくる。「初めてブロードウェイに携わる機会に恵まれ、これをきっかけにツアーの仕事が増えてアメリカのいろんな都市を回りました。『Once Upon A One More Time』(ブロードウェイ公演前のリハーサル中にコロナシャットダウン)、『Getting the band back together』『The Inheritance Part 1 & Part 2』などさまざまな作品に巡り会えました。でもやっぱりニューヨークで仕事がしたいと思い始めた矢先、再びウィキッドの話が舞い込んできたんです」

◆ ハードな毎日でも「幸せです」
こうして、2021年9月にステージマネージャーとして正式に同カンパニーに入った沙織さん。休みは週に一度、それはもちろんハードなスケジュールだが、それを上回る原動力があるという。「土日は公演があるので、普通の友達とはなかなか会えなかったりしますが、その忙しさは分かった上でこの仕事を取っているし、好きじゃないとできない仕事なので。みんなこれまで頑張ってきてブロードウェイの仕事ができているから、みんなで “心を込めて公演をしよう!”という団結感もあります」
「それにカンパニーのメンバーはすごく仲が良くて、そして何より良い作品だし、曲も素晴らしい。生オーケストラは、今になっても毎日のように聴けていることが幸せです」

ステージマネージャーは全部で4人いて、舞台全体を見ながら指揮者や照明、音響のきっかけなどを指示するコーリングと言われる役割や、バックステージでのキャストへのキュー出し、そのほかにもオフィスでの書類・レポート作成やキャストのスケジュール管理、また演出家不在時には彼らに代わってキャストへのパフォーマンスチェックを行ったりと、業務内容は多岐に及ぶため、毎公演ごとに役割をローテーションさせているという。

「いろんな部署と話をしながら、いろんなことができるのが楽しいですね。オフィスの仕事もあるし、バックステージに立つこともできるし、逆にいろんなことができて、楽しいです。飽きないです」
◆「アジア人だからといった引け目はない」
インタビューをしていても、飛んでくるのはポジティブな言葉ばかり。だが実際のところ、ブロードウェイの業界に携わっている日本人は数えても両手で収まるほどのマイノリティ。日本で生まれ育ったというバックグラウンドを感じさせない話ぶりに、「日本人として、大変だなと感じることはありますか?」と投げかけてみると、「もちろんあります!だけど、アジア人だから・・・といった引け目はないですね」という回答が。

「英語に関してはインターナショナルスクールに通っていたわけでもなく、高校3年生まで普通の高校に行っていたので、すごく勉強しましたね。今でも英語は毎日頑張ろうって思います。でもそんな環境でも自分が『マイノリティだ』という感覚はなくて。日本でマジョリティの中で生まれ育ってきたので、あまり何を言われても気にしないですね」
意外な答えが返ってきたが、これは海外で活躍する日本人にとって大事な考えの一つかもしれない。自らカテゴライズして、リミットは決める必要はない・・・まさに「Defying Gravity」に込められたメッセージのようだ。「あと、もし嫌なことがあってもお客さんの表情を見ると嬉しくなりますし、私はウィキッドにいられて幸せ。この気持ちを忘れないようにしています。やはり、この仕事が大好きです」

◇
自然体で、ポジティブに「ステージマネージャー」という仕事を愛し、奮闘するさおりさん。パート2 では実際にウィキッドのカンパニーで働くことについて、またそこから見える「この作品が世界中から愛されるワケ」ついて語ってもらった。
取材・文・一部写真/ナガタミユ
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