2025年9月22日 NEWS DAILY CONTENTS

アメリカの就労ビザ「H-1B」申請の手数料が10万ドルに急騰、NYにも深刻な影響

トランプ大統領は19日、これまで215ドルだったH-1B(専門職)ビザ申請の手数料を10万ドルとする大統領令に署名した。この変更は同政権が過剰利用と見なしているH-1Bビザの利用を抑制するための措置。22日付のドキュメンテッドは、アメリカ国内のどの都市圏よりも多くのH-1B労働者を抱えるニューヨークに「重大な影響を与える可能性がある」と指摘する。ドキュメンテッドは、ニューヨーク市の移民コミュニティーに対してニュースを発信する独立系非営利メディア。

写真はイメージ(photo: Unsplash / Jhon Jim)

◆ 発表時にパニック広がる

変更は即時発効し、21日アメリカ東部標準時間午前0時1分から適用となった。ただし変更は新規申請のみに適用され、既存のH-1Bビザや更新には適用されない。同措置は1年後に失効する予定だが、延長される可能性もある。

テキサス州エルパソを拠点に活動する移民弁護士、キャスリーン・キャンベル・ウォーカーさんは、AP通信が引用したLinkedIn の投稿で、この動きについて「基本的に1日の通知で、既存のH-1Bプロセスに完全な混乱をもたらす」と述べている。実際、発表当時、海外に滞在していた既存の H-1B ビザ保有者の間では、21日までにアメリカに戻らなければ新しい手数料が適用されるかどうか不明確だったことから混乱とパニックが広がった。インド、中国、ドバイ、パリ、日本など各地で旅行計画がキャンセルされ、搭乗した飛行機から降りる乗客や、深夜0時前に到着する直前のフライトに数千ドルを費やす者もいた。

ニューヨークに与える影響

ピュー・リサーチ・センターによれば、2023年にH-1Bビザの承認件数が全米で最も多かったのはニューヨーク、ニューアーク、ジャージーシティー都市圏で、5万5000件が承認された。これは2位のワシントンD.C.やカリフォルニア州サンノゼのほぼ2倍に相当する。

ニューヨークの経済は金融、テクノロジー、大学、病院など多岐にわたる分野で国際的人材に大きく依存している。大企業は新たな外国人熟練労働者を招致するための6桁の費用を吸収できるかもしれないが、スタートアップ企業や非営利団体、中小企業には困難と予想される。また、経済面のみならず今回の変更は、ニューヨークのように世界中から才能が集まる都市のアイデンティティーを再構築する可能性がある。雇用主が国際的な採用を縮小すれば、ニューヨークは研究者、エンジニア、クリエイティブな人材を規制の少ない他の地域に奪われるリスクがあり、都市の多様性と競争力に長期的な傷跡を残す恐れがある。

富裕層向けの新しいビザ

H-1Bビザ制度の抜本的見直しは、より広範な移民政策改革の一環だ。トランプ政権は19日、富裕層投資家向けに市民権取得の道を開く100万ドルの「ゴールドカード」ビザ、企業が従業員をスポンサーできる200万ドルの「コーポレート・ゴールドカード」も導入。さらに個人が非課税でアメリカに一時滞在するためのもの500万ドルの「プラチナカード」を準備中。トランプ氏は商務長官、国務長官、国土安全保障長官に対し、この新たな「有料プログラム」を実施するため「必要なあらゆる適切な措置」を90日以内に講じるよう指示した。これらの措置はいずれもアメリカの労働者の保護と歳入増のを目的としたもので、トランプ氏は「重要なのは、優秀な人材が参入し、彼らが対価を支払うことだ」「その資金を活用し、減税と債務削減を実現する」と語っている。大統領令はまた、労働省に対しH-1B労働者への最低賃金引き上げを命じているが、新たな基準額についてはまだ発表されていない。

批判と法的異議申し立て

大統領令への署名はたちまち波紋を呼び、「議会無視の暴挙で、新たな手数料が雇用を阻害し、家族を傷つけ、イノベーションを遅らせ、雇用を海外に流出させ、アメリカの競争力を弱める」と大きな批判が巻き起こった。米商工会議所の広報担当マット・ルトゥルノー氏は声明で「従業員とその家族、そしてアメリカの雇用主への影響を懸念している」と述べている。ニューヨークタイムズによると、変更には法的異議申し立てが予想され、一部の団体は数日以内に仮差し止め命令を求める訴訟を起こす意向だという。

H-1Bビザの全体像

ピュー・リサーチ・センターがまとめた政府データは次の通り。

◎24会計年度に承認されたH-1B申請は約40万件。うち65%が更新申請

◎インドが依然として最大の出身国(23年の承認件数の73%)。次に多いのが中国(12%)

◎H-1B労働者の約60%はコンピューター関連分野に従事しており、次に多いのは工学・建築・測量分野(9%)

◎アマゾンは20年以降、H-1B雇用主トップを維持、次いでグーグル、マイクロソフト、アップル、メタ、シスコ、IBM、JPモルガン・チェース、シティバンク、デロイト、アクセンチュア

その他の就労ビザへの影響は?

アメリカの就労ビザは、今回、変更の対象となったH-1Bビザ(専門職)の他、H-2ビザ(季節労働・非季節労働)、Lビザ(企業内転勤)などがある。また、交流訪問者のためのJ-1ビザ、駐在員のためのE-1、投資家のためのE-2ビザもある。手数料の大幅引き上げが今後、これらのビザにも波及するのか注視する必要があるだろう。

                       
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