2025年9月30日 NEWS DAILY CONTENTS

アメリカ「H-1Bビザ」申請巡り米競争力に影、ゴールドマンなど大企業で混乱

アメリカのトランプ大統領が、H-1B(専門職)ビザ申請の手数料を10万ドルとする大統領令に署名し、日系企業を含めたビジネス界に衝撃を与えている。現状と同じ高度な知識を持つ専門職を、これまでの215ドルの500倍近く支払って確保していくことになる。H-1Bビザの就労者が特に多いニューヨークの金融業など、優秀な専門職がいなければ「生き残りにもかかわる」と不安が広がっている。

申請料の“天文学的”な値上げは、ニューヨークの金融街を直撃している(photo: Unsplash / Chenyu Guan)

トランプ氏の大統領令は9月21日東部時間午前0時1分から発効。対象は新規申請のH-1Bのみとしたが、ゴールドマン・サックス、マイクロソフト、アマゾンなど大企業は、海外にいたH-1B就労者に20日以内に緊急帰国するように呼びかけた。このため、ロンドンや北京の空港が混雑。人事担当者や移民弁護士は、ホワイトハウス発のSNSに24時間目を凝らし、H-1B就労者は不安な帰路を経験した。既存や更新のビザ保持者にも既に影響が及んでいる。

ニューヨークタイムズによると、ゴールドマン・サックスはニューヨーク金融街で最大のH-1B就労者を抱える。この他、アマゾン、メタ、ウォルマートなどが国内で最大級のH-1Bの雇用主。H-1B就労者全体の約6割がコンピューター技能者であり、ハイテク、工学、金融と影響を受ける業種は幅広い。今後の経営にもかかわる問題だ。

移民弁護士らによると、トランプ政権が発足した今年1月から既に、海外出身の顧客のためにビザ申請をすると、当局が難色を示すケースが増えたという。追加情報を求めてくる頻度も増した。2024年度に承認されたH-1B申請は約40万件で、うち65%が更新申請だが、果たして今後順調に承認されるのか。企業は専門職をどう補充していったらいいのか、不透明さが残る。

日系企業でのH-1B就労者は全体に比べれば限られているが、人事担当者は頭を抱えている。「今年1月からビザの条件がコロコロ変わり、しかも締め付けが厳しくなるので、頭が痛い」(ハイテク企業関係者)という。

ニューヨークタイムズのインタビューに応じたハイテク業界団体チェンバー・オブ・プログレス最高経営責任者(CEO)、アダム・コバチェビッチ氏はこう指摘する。

「今後アメリカの業界が人工知能(AI)分野において、片手を後ろ手に縛られたまま、中国に対抗して競争するということになりかねない」と、アメリカの競争力を懸念する声を上げている。

取材・文/津山恵子

                       
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